2019年4月27日土曜日

訪問者 2 1 - 2

 その夜の一般食堂と中央研究所の食堂の夕食は、ちょっと普段と違った趣の料理だった。カリカリに焼かれたベーコンに、その脂が流れ出したフライパンで焼かれた卵、表面がカリカリで中がフワフワのトウモロコシのパン、豆と挽肉、みじん切りにした野菜を煮込んだスパイシーなチリコンカン、スライスした玉葱をどっさり載っけた新鮮なトマト・・・

「西部劇の朝飯だな。」

とヤマザキ・ケンタロウが評価した。

「しかし、やたらと美味いぞ。」

 ハイネが自分のトウモロコシパンをヤマザキの手が届かない位置に移動させた。取られたくないのだ。ケンウッドもこの素朴なメニューに、まだ一度も訪れたことがない中西部の街を想像した。

「シェイの監修でオブライアン・ドーマーが作ったのだよ。突然のメニュー変更で、今日はこれだけしか作れなかったが、食材の調達が出来れば彼女はもっと多くの種類を作れるそうだ。」
「美味しいです。」

とハイネが素直に認めた。

「ドームの外に彼女を出すのが惜しいですよ。」
「どうしても外に出すのかい?」

 ヤマザキも不満気にケンウッドを見た。ケンウッドは肩を竦めた。

「地球人類復活委員会の規則で、ドームの中で暮らせるのは委員会が認めたコロニー人とドーマーだけと決められているからね。シェイはどちらにも当てはまらない。」
「パーカーはここに居るじゃないか。」
「彼は古代人で地球人復活の重要な鍵を持っている。特例でドームに居るのだ。それにドームから彼を出すのは、彼を火星の人類歴史博物館に戻すと言うことになるからね。彼を地球に留めておくには、ドームで暮らすしかないのだ。」

 そこへドーム維持班総代表のジョアン・ターナー・ドーマーがやって来た。まだ40代中盤の彼は大先輩の遺伝子管理局長に挨拶をして、それから長官と医療区長にも挨拶した。口煩い執政官なら順番が違うだろうと文句をつけたろうが、ケンウッドもヤマザキも気にしなかった。

「今夜のお食事は如何でしたか?」
「美味しかった。」
「不意に指図されて考えたメニューとは思えない程、まとまりの良い構成で、味も素晴らしかったよ。」
「全てシェイが一人で立てたメニューです。彼女にお褒めの言葉を伝えておきましょう。」

 ハイネが尋ねた。

「維持班は彼女を雇うのかね?」
「大好評なので、手放したくありませんが・・・」

 ターナー・ドーマーは苦笑した。

「一緒に彼女の仕事ぶりを見た寮食堂の代表が、彼女が働くことを承知しました。正式に雇用したいとのことです。ただあちらの従業員は皆通いですから、彼女には空港ビルに近い場所に部屋を借りることにしました。パーカーをドームの外に出せないので、彼女は送迎フロアの面会室で彼に会えることにしました。」