2019年4月23日火曜日

誘拐 2 4 - 9

 その夜遅く、ケンウッドはアパートの自室でハイネ局長からメールを受け取った。ハイネはセイヤーズの報告書を転送して来たのだ。それでケンウッドは眠前の読書として報告書を読んだ。
 セイヤーズの報告書は詳細だったがわかりやすい文章だった。セント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンの警察からシェイの行方に関する情報をもらって、局長の許可を取り付けて女性を迎えに行ったこと、現地でFOKの幹部ニコライ・グリソムと遭遇し、撃ち合いになったこと、向こうが自動小銃を出して来たので、鏡の反射を使って光線銃を撃ったら、光線がカウンターの上にあったガラス容器に当たって乱反射して、グリソムが光線に当たり、指が銃の引き金を引いたまま動かなくなったこと、その時に銃弾の破片が室内を飛び回ってセイヤーズの脚に当たったこと、グリソムは外に逃げ出したが、上空に来ていた静音ヘリのパイロット、マイケル・ゴールドスミスに見つけられて捕まったこと、ゴールドスミスがセイヤーズの傷の応急処置をしたこと、そして彼が奥の食品庫に閉じ込められていたシェイを発見して保護したこと、最後に出張所のリュック・ニュカネンが救護班を連れてローズタウン支局のヘリで援護に到着したこと、等など。
 ケンウッドは小説を読んでいる気分で報告書を読み終えた。医療区から届いたセイヤーズの診断書では、右ふくらはぎを弾丸の破片で裂かれ、出血が多かったが救護班の応急手術で大事なく済んだ、とあった。つまり、救護班の到着が遅れればセイヤーズの生命は危険だったのだ。
 画面を閉じてケンウッドは溜め息をついた。ベッドから出てキッチンに行き、冷たい水を飲んだ。
 どんなに閉じ込めても子供達は外へ出て行く。危険から遠ざけようと執政官が努力してもドーマー達は気にも留めずに冒険に挑む。

 それが人間じゃないか。我々コロニー人だって、昔は危険に満ちた宇宙へ飛び立った人々の子孫なんだ。

 ケンウッドはハイネ局長が毎日どんな思いで外に出かけて行く部下を見送り、帰りを待っているのか、想像出来た。
 ゴーン副長官からメールが来た。内容は短く、シェイが観察棟で充てがわれた部屋に満足して就寝した、とあった。
 明日は彼女の今後の処遇を決めなければならない。ケンウッドは執政官幹部会議の招集メールを送った。