ショシャナはハイネと話す前と違って明るい表情で姉弟が待つテーブルに移動した。そして弟に声を掛けた。
「貴方の番よ、ローガン。」
ローガン・セドウィック・パーシバルは意を決して立ち上がると祖父の前に座った。
「改めて、初めまして、局長。僕はローガンです。」
「ヤァ、初めまして。私もローガンだ。よろしく。」
そこへキーラが湯気が立つ熱いサンドウィッチを運んで来て父親の前に置いた。するとハイネが珍しく皿を彼女に押し返して苦情を言った。
「気が散るから、私が呼ぶ迄持って来るな。」
キーラはニヤッと笑って息子に言った。
「局長はチーズを目の前にすると平静でいられないのよ。」
そして皿を持ち去った。ハイネがその後ろ姿を見送りながら呟いた。
「ワザとやったな。」
そして孫に向き直った。
「あれはそう言う女だ。そうだろう?」
ローガン少年は祖父の前で初めて笑った。笑うとヘンリー・パーシバルに似ている、とハイネは思った。
少年は咳払いして、それからハイネに改めて向き直った。
「失礼しました。僕は今年大学を受験します。遺伝子工学を勉強するつもりです。但し、人間ではなく植物です。新規開拓の天体で栽培可能な農作物を作る仕事をしたいのです。」
ハイネは黙って頷いた。少年の目標に何か問題があると思えなかった。現時点で聞く限りでは。ローガン少年は続けた。
「新しい作物を作るには、開拓地に実際に行って気候や土を見なければなりません。ラボで計算して出来るものではないんです。だから僕は辺境へ行きたいんです。」
それでハイネはやっと彼が抱える問題点が見えた気がした。
「親の誰かが反対しているのだな? 君が辺境へ出かけることを。」
「両親2人共に反対しています。」
「辺境とは、行きたい星を決めてあるのか?」
「それはまだ・・・」
遺伝子管理局は人間だけでなく地球上の動植物の遺伝子管理も行なっている。ハイネは全てを把握している訳ではないが、新規開発された遺伝子組み換えの野菜や家畜の実用化や増産の許可証発行などを行うこともある。
「まだ大学に合格もしていないうちから反対するのは可笑しな話だ。」
と彼は言った。そうでしょう、と少年。
「合格して入学してから、僕が研究したい対象が変わるかも知れないじゃないですか。」
「私は薬剤師をしていた。遺伝子管理局長に就任する前だ。」
「はい、それは母や父から聞きました。」
「本来は遺伝子の研究に関する薬品の管理をする仕事だったから、染色体や分子構造に影響を与える薬剤の勉強をしていた。しかし薬剤管理室は医療区の薬品も扱う。私はドームの外で使用されている薬に興味が移り、さらに漢方薬に行き着いた。最終的には、同じ症状の病気に効力がある異なる薬品の比較に没頭してしまった。
研究対象が変わるのは、勉強を始めてからだ。大学受験そのものを君の両親は反対していない筈だ。辺境へ行きたいと言う君の夢を断念させたいだけだ。だから、先ず大学に合格することを目標に頑張りなさい。そこでどんな先逹と出会うか、どんな目標を見つけるか、未来のことは誰にもわからない。」
ハイネはニヤリと笑いかけた。
「もしかすると、君は執政官としてここへ来るかも知れないじゃないか。」
ローガン少年が頬を赤らめた。
「もしそうなったら・・・その時も貴方はここにいらっしゃいますよね?」
「未来のことは誰にもわからんよ。」
少年は立ち上がり、祖父の手を取った。
「僕が貴方をここから出してあげます。空気の浄化を促進させる植物を開発して、貴方がドームの外でも呼吸して生きていける世界を創りますよ。」
馬鹿でかい夢をいきなり語る孫を、ハイネは抱き寄せた。
「辺境が地球に変わったのか?」
「駄目ですか?」
ローガン少年は祖父にキスをした。
「僕の名前が貴方から頂いたと知った時から、貴方に憧れていました。」
「貴方の番よ、ローガン。」
ローガン・セドウィック・パーシバルは意を決して立ち上がると祖父の前に座った。
「改めて、初めまして、局長。僕はローガンです。」
「ヤァ、初めまして。私もローガンだ。よろしく。」
そこへキーラが湯気が立つ熱いサンドウィッチを運んで来て父親の前に置いた。するとハイネが珍しく皿を彼女に押し返して苦情を言った。
「気が散るから、私が呼ぶ迄持って来るな。」
キーラはニヤッと笑って息子に言った。
「局長はチーズを目の前にすると平静でいられないのよ。」
そして皿を持ち去った。ハイネがその後ろ姿を見送りながら呟いた。
「ワザとやったな。」
そして孫に向き直った。
「あれはそう言う女だ。そうだろう?」
ローガン少年は祖父の前で初めて笑った。笑うとヘンリー・パーシバルに似ている、とハイネは思った。
少年は咳払いして、それからハイネに改めて向き直った。
「失礼しました。僕は今年大学を受験します。遺伝子工学を勉強するつもりです。但し、人間ではなく植物です。新規開拓の天体で栽培可能な農作物を作る仕事をしたいのです。」
ハイネは黙って頷いた。少年の目標に何か問題があると思えなかった。現時点で聞く限りでは。ローガン少年は続けた。
「新しい作物を作るには、開拓地に実際に行って気候や土を見なければなりません。ラボで計算して出来るものではないんです。だから僕は辺境へ行きたいんです。」
それでハイネはやっと彼が抱える問題点が見えた気がした。
「親の誰かが反対しているのだな? 君が辺境へ出かけることを。」
「両親2人共に反対しています。」
「辺境とは、行きたい星を決めてあるのか?」
「それはまだ・・・」
遺伝子管理局は人間だけでなく地球上の動植物の遺伝子管理も行なっている。ハイネは全てを把握している訳ではないが、新規開発された遺伝子組み換えの野菜や家畜の実用化や増産の許可証発行などを行うこともある。
「まだ大学に合格もしていないうちから反対するのは可笑しな話だ。」
と彼は言った。そうでしょう、と少年。
「合格して入学してから、僕が研究したい対象が変わるかも知れないじゃないですか。」
「私は薬剤師をしていた。遺伝子管理局長に就任する前だ。」
「はい、それは母や父から聞きました。」
「本来は遺伝子の研究に関する薬品の管理をする仕事だったから、染色体や分子構造に影響を与える薬剤の勉強をしていた。しかし薬剤管理室は医療区の薬品も扱う。私はドームの外で使用されている薬に興味が移り、さらに漢方薬に行き着いた。最終的には、同じ症状の病気に効力がある異なる薬品の比較に没頭してしまった。
研究対象が変わるのは、勉強を始めてからだ。大学受験そのものを君の両親は反対していない筈だ。辺境へ行きたいと言う君の夢を断念させたいだけだ。だから、先ず大学に合格することを目標に頑張りなさい。そこでどんな先逹と出会うか、どんな目標を見つけるか、未来のことは誰にもわからない。」
ハイネはニヤリと笑いかけた。
「もしかすると、君は執政官としてここへ来るかも知れないじゃないか。」
ローガン少年が頬を赤らめた。
「もしそうなったら・・・その時も貴方はここにいらっしゃいますよね?」
「未来のことは誰にもわからんよ。」
少年は立ち上がり、祖父の手を取った。
「僕が貴方をここから出してあげます。空気の浄化を促進させる植物を開発して、貴方がドームの外でも呼吸して生きていける世界を創りますよ。」
馬鹿でかい夢をいきなり語る孫を、ハイネは抱き寄せた。
「辺境が地球に変わったのか?」
「駄目ですか?」
ローガン少年は祖父にキスをした。
「僕の名前が貴方から頂いたと知った時から、貴方に憧れていました。」