2019年4月28日日曜日

訪問者 2 1 - 7

 大方のドーム住人達が朝食を終える午前9時に、ケンウッドは一般食堂前の噴水広場特設ステージで春分祭開催の挨拶をした。祭の始まりだ。ドームのゲートから待ちかねた宇宙からの観光客がドッと押し寄せてきた。食堂は閉じられ、出産管理区が見えるガラス窓は不可視モードになって地球人女性のプライバシーを保護する。ドーマーや女性執政官達が飲食物を販売する屋台をオープンした。食堂以外の場所で飲食出来る貴重な日だ。女装した男性執政官達が施設内を徘徊し、観光客の求めに応じて記念写真を一緒に撮る。ドーマー達も見物人の筈なのだが、観光客達は前年度の祭の取材番組で見かけたお目当のハンサムなドーマーを発見しては追いかけ、サインを求めたり映像を撮影する許可を求める。
 ケンウッドは早々に火星コロニーのテレビ局3社と木星コロニーの4社、月の2社に宇宙連邦行政府の広報テレビ局のインタビューを受けた。女性誕生の鍵を発見した功績が既に連邦内に拡散されている。まだ本当にプログラムの修正が行われている訳でもないのに、もう人々は地球人が宇宙連邦に復帰出来るのは何時のことかと知りたがっているのだ。

「発見した内容が正しいと証明されるのは1世代待たねばなりません。どうか、この騒ぎはまだ時期尚早であるとご理解下さい。」

 ケンウッドは、何故月の本部が前もってメディアに予防線を貼ってくれなかったのだろうと恨めしく思った。ベルトリッチ委員長は多忙だが、気配りが出来る人だ。これはきっと収入増加を狙った財務局の陰謀に違いない。メディア各社はケンウッドや他のドーム長官のインタビューを許可してもらうのにお金を払うのだ。その額はドーマーを見るために観光客が払うドーム入場料とは比べ物にならない程高額だ。
 祭が開始されて1時間も経つとケンウッドは疲れてしまった。女装したモデルの性格や人生に合わせて観光客相手にゲームに興じる他の執政官達が羨ましい。
 くたびれたケンウッドのハイジが庭園端っこのベンチに腰を下ろすと、早速観光客らしい女性が2人近づいて来た。

「ケンウッド長官ですね?」
「ええ、そうです。」
「サインと握手をして頂いてよろしいですか?」

 彼女達は無邪気に彼と握手して写真を撮った。一人が彼に尋ねた。

「ポール・レイン・ドーマーを探しているのですが、見当たりません。彼は外に出かけているのですか?」
「いいえ、今日はドーマー達は休日です。アパートに引っ込んでいるのでしょう。」
「あら・・・彼は毎年出てきてくれていたのに。」

 今年レインは出てこない。セイヤーズを取り戻したので、アナトリー・ギルやファンクラブに引っ張り回されて祭会場を歩き回ることはないのだ。セイヤーズと2人でアパートでテレビでも見ているのだろう。
 もう一人は、ローガン・ハイネはどこにいるのかと尋ねた。

「ハイネ局長は昼になれば現れますよ。」

とケンウッドは親友を「売った」。ハイネは昼前に日課を終えて昼食を摂りに出て来る。必ず遺伝子管理局本部から出て来る。彼の習慣を知っているテレビ局は大概本部前で待機して彼を撮影してインタビューするのだ。ハイネは職業柄インタビューに慣れている。それに彼のインタビューも地球人類復活委員会の収入源の一つだから、彼もそれを弁えていて、大人しく応じるのだ。しかし、インタビュアーがしつこいと、突然走り出して逃げ去る。宇宙で中継を見ている視聴者は毎年ハイネが何時走り出すかとドキドキしながらテレビを見るのだ。
 ケンウッドは会場マップを端末に出した。チーズを扱う食べ物の屋台の位置を探し、そこへ向かった。