ケンウッドは久し振りにドームの外に出た。同行するのはドーム維持班総代表のジョアン・ターナー・ドーマーとドーム空港総合支配人で珍しい女性の元ドーマー、キャロル・ダンストだ。そしてちょっと不安げな表情のシェイ。
ケンウッドとシェイはこの日が初対面だった。ケンウッドは彼女の遺伝子情報はこの数日たっぷりと見て来たが、本人に会うのは初めてで、ちょっと不思議な感じがした。シェイは、ジェリー・パーカーによれば少し痩せたと言う話だが、ちょっと小太りの体型で、丸顔で、お世辞にも美女とは言えない造作だ。しかし鼻も口元も形は整っていて、もっとシェイプアップすれば美人になるかも知れない。目は小さなめだが、その輝きは知性豊かな人であることを彼に伝えていた。他人の話から彼女が凡庸な人だと言う印象を抱いていたケンウッドは、大きな間違いだったと内心反省した。この女性は男ばかりの狭い世界で身を守る為に幼い頃から凡庸を装って来たのだ。本当は利口で賢いのだ。だから、ラムゼイが亡くなった後数ヶ月も運転手の男と2人きりで、男女関係になりもせず、運転手を部下として廃村で小さな食堂を経営して生き抜いたのだ。
彼女はドームの外で暮らさなければならない理由を理解してくれた。ジェリー・パーカーと離れて暮らすことも受け容れてくれた。
「ジェリーと私、ずっと守って頂けるのでしたら、どんな仕事でも致しますよ。」
「貴女に無理なことをさせたりしません。空港で働く人々に美味しい食事を作って頂けると嬉しいです。」
ダンストが彼女を新しい職場へ連れて行き、新しい同僚達に紹介した。料理人は男ばかりだったが、シェイは恐れもせずにいきなり設備の点検と調理器具や食材の保管庫をチェックし始めて、ケンウッドとターナーを苦笑させた。既に彼女の仕事ぶりを確認していた寮食堂代表はびっくりしている部下達に、彼女は中西部の牧場でカウボーイ相手に料理長をしていた人だと紹介して、新しいチーフになると宣言した。これにはケンウッド、ターナー、それにダンストも驚いた。寮食堂代表が勝手に決めたのだ。彼は上司達を振り返って言った。
「女性を仲間に入れるのですから、彼女の位置をしっかり決めておかなければなりません。昨日の彼女の仕事を見れば、彼女が料理長の器であることは誰でもわかりますよ。そんな人を新入りの下っ端に出来ませんし、普通の調理師では揉め事のタネになります。彼女は自分の主張を曲げません、そんな人です。だから、私の上司になってもらいます。」
ケンウッドは思わず彼の手を取って大きく振った。
「君は人間を見る目を持っているのだね! シェイをよろしく頼む。彼女の身の上は昨日副長官が語ったと思うが・・・」
寮食堂代表は彼に最後まで言わせなかった。
「ドームには秘密が多い、私は墓場まで彼女の秘密を持って行きます。」
ケンウッドは彼も元ドーマーだったと思い出して、笑みをこぼした。
1時間後に、彼等は空港から車で20分ほど走った距離にある高層住宅の建物に移動した。シェイは高所恐怖症だと聞いていたので、ターナー・ドーマーがそのビルの近所の空き部屋がある建物へ行く目印にしたのであって、そのビル自体は目的地ではなかった。シェイは初めて高層ビルを見て、ケンウッドに「倒れて来ない?」と尋ねて苦笑させた。
シェイが借りる予定の部屋は3階建のアパートの2階と3階が繋がったメゾネット方式の部屋だった。地上階は商店が入っており、食料品店や薬局、診療所などが並んでいた。
一人暮らしには十分の広さの部屋に、シェイは心細そうな顔をした。物心着いてからずっと大勢の男達と暮らしてきたからだ。ケンウッドはゴーン副長官と話し合ったアイデアを彼女に伝えた。
「君の生活が安定してきたら、パーカーやJJにも外出許可を与えてここへ遊びに寄越すようにする。ダンスト君も度々様子を見に来るそうだから、君の好みの生活をしなさい。ただし・・・」
彼は彼女の目を見て言った。
「絶対にドームの許可なしに男性を中に入れてはいけない。君の安全を守る為の忠告だ。通勤も必ず空港職員専用のバスを利用しなさい。仕事以外の外出は、慣れるまでは必ず職場の人と出かけること。一人で出かけるのは、君がこの街に慣れてからだ。いいね?」
シェイは頷いた。
「わかりました、長官。私、空港の建物の外には出ません。だって、空港ビルだけでも迷子になりそうだもの。」
ケンウッドとシェイはこの日が初対面だった。ケンウッドは彼女の遺伝子情報はこの数日たっぷりと見て来たが、本人に会うのは初めてで、ちょっと不思議な感じがした。シェイは、ジェリー・パーカーによれば少し痩せたと言う話だが、ちょっと小太りの体型で、丸顔で、お世辞にも美女とは言えない造作だ。しかし鼻も口元も形は整っていて、もっとシェイプアップすれば美人になるかも知れない。目は小さなめだが、その輝きは知性豊かな人であることを彼に伝えていた。他人の話から彼女が凡庸な人だと言う印象を抱いていたケンウッドは、大きな間違いだったと内心反省した。この女性は男ばかりの狭い世界で身を守る為に幼い頃から凡庸を装って来たのだ。本当は利口で賢いのだ。だから、ラムゼイが亡くなった後数ヶ月も運転手の男と2人きりで、男女関係になりもせず、運転手を部下として廃村で小さな食堂を経営して生き抜いたのだ。
彼女はドームの外で暮らさなければならない理由を理解してくれた。ジェリー・パーカーと離れて暮らすことも受け容れてくれた。
「ジェリーと私、ずっと守って頂けるのでしたら、どんな仕事でも致しますよ。」
「貴女に無理なことをさせたりしません。空港で働く人々に美味しい食事を作って頂けると嬉しいです。」
ダンストが彼女を新しい職場へ連れて行き、新しい同僚達に紹介した。料理人は男ばかりだったが、シェイは恐れもせずにいきなり設備の点検と調理器具や食材の保管庫をチェックし始めて、ケンウッドとターナーを苦笑させた。既に彼女の仕事ぶりを確認していた寮食堂代表はびっくりしている部下達に、彼女は中西部の牧場でカウボーイ相手に料理長をしていた人だと紹介して、新しいチーフになると宣言した。これにはケンウッド、ターナー、それにダンストも驚いた。寮食堂代表が勝手に決めたのだ。彼は上司達を振り返って言った。
「女性を仲間に入れるのですから、彼女の位置をしっかり決めておかなければなりません。昨日の彼女の仕事を見れば、彼女が料理長の器であることは誰でもわかりますよ。そんな人を新入りの下っ端に出来ませんし、普通の調理師では揉め事のタネになります。彼女は自分の主張を曲げません、そんな人です。だから、私の上司になってもらいます。」
ケンウッドは思わず彼の手を取って大きく振った。
「君は人間を見る目を持っているのだね! シェイをよろしく頼む。彼女の身の上は昨日副長官が語ったと思うが・・・」
寮食堂代表は彼に最後まで言わせなかった。
「ドームには秘密が多い、私は墓場まで彼女の秘密を持って行きます。」
ケンウッドは彼も元ドーマーだったと思い出して、笑みをこぼした。
1時間後に、彼等は空港から車で20分ほど走った距離にある高層住宅の建物に移動した。シェイは高所恐怖症だと聞いていたので、ターナー・ドーマーがそのビルの近所の空き部屋がある建物へ行く目印にしたのであって、そのビル自体は目的地ではなかった。シェイは初めて高層ビルを見て、ケンウッドに「倒れて来ない?」と尋ねて苦笑させた。
シェイが借りる予定の部屋は3階建のアパートの2階と3階が繋がったメゾネット方式の部屋だった。地上階は商店が入っており、食料品店や薬局、診療所などが並んでいた。
一人暮らしには十分の広さの部屋に、シェイは心細そうな顔をした。物心着いてからずっと大勢の男達と暮らしてきたからだ。ケンウッドはゴーン副長官と話し合ったアイデアを彼女に伝えた。
「君の生活が安定してきたら、パーカーやJJにも外出許可を与えてここへ遊びに寄越すようにする。ダンスト君も度々様子を見に来るそうだから、君の好みの生活をしなさい。ただし・・・」
彼は彼女の目を見て言った。
「絶対にドームの許可なしに男性を中に入れてはいけない。君の安全を守る為の忠告だ。通勤も必ず空港職員専用のバスを利用しなさい。仕事以外の外出は、慣れるまでは必ず職場の人と出かけること。一人で出かけるのは、君がこの街に慣れてからだ。いいね?」
シェイは頷いた。
「わかりました、長官。私、空港の建物の外には出ません。だって、空港ビルだけでも迷子になりそうだもの。」