2019年4月10日水曜日

誘拐 2 3 - 5

 昼前の打ち合わせ会が終わると、ケンウッドはいつもの様に副長官と遺伝子管理局長に昼食の誘いをかけ、いつもの様にゴーン副長官は女性同士で食べますと断り、ハイネ局長は時間があるので誘いに乗ってくれた。
 2人は食堂に向かって歩きながらドーマーの家族観について語り合った。ハイネはドーマーにも肉親に対する愛憎があるのだと言った。

「名前も顔も在所も知らずとも、親の存在は意識していますよ。毎日ガラス越しに母親達を見ているのですから、出産管理区で働いていなくても母親が子に寄せる愛情は感じています。」
「母親の愛情を知らずに育ったことを哀しく思わないのかね?」
「養育係に愛されて育ちましたし、部屋兄弟と毎日遊んでいました。周囲も同じでしたから、自分が何を知らなかったのか、自覚はないですね。」

 確かに養育係として部屋毎にいる執政官とその助手で子供の数だけ配属される年配のドーマー達が一人一人の子供のドーマーを慈しんで育てる。外の世界の養父母と養子の関係に似た状況だ。子供達は大人から与えられる愛情にどっぷり浸かって育つのだ。
 ケンウッドは養育係の経験はなかった。教官として勉強を教えただけだ。それも養育棟から卒業間近の少年達を教えたので、幼いドーマー達の生活は知らなかった。

「母親の愛情の代替を養育係から与えられることはわかった。では、父親の愛情はどうだろう?」
「父親の愛情ですか?」

 全ての年下のドーマー達の父親であると自負しているハイネはケンウッドを横目で見た。

「養育係は母であり父でもありますが?」

 ケンウッドは養育係の半数は男性だと言う事実を思い出した。己の迂闊さに、彼は気まずくなって手で自身の額をピシャリと打った。

「そうだね! その事実をすっかり失念していたよ。