2019年5月25日土曜日

大嵐 2 1 - 10

  医療区でキャリー・ワグナー・ドーマーがポール・レイン・ドーマーを出迎え、お悔やみを述べた。レインは黙って頷いただけだった。ドーマーでこの半年に2度もお悔やみを聞いたのは俺だけだ、と思った。家族持ちと言うことか。
 キャリーの案内で通された病室で、ダリル・セイヤーズ・ドーマーがベッドに座ってライサンダーを抱いていた。彼はまだスーツのままで、毛布にくるまれたライサンダーは鎮静剤が効いたのかぐったりと父親にもたれかかっていた。その背をセイヤーズが優しく叩き続けていた。
 レインがそばに来ると、彼が顔を上げた。

「すまない。」

と彼が囁いた。

「君が警告をくれたのに、私は間に合わなかった。」
「誰にも非はない。」

 レインはライサンダーをはさんで座った。

「悪いのはマコーリーとその一味だ。俺たちの落ち度ではないし、ライサンダーのせいでもない。当然、ポーレットが油断したからでもない。他人の善意を踏みにじる人間がいただけだ。」
 
 彼はライサンダーの体をそっとセイヤーズから取り上げた。

「俺が見ているから、君は少し休んで来い。飯もまだだろう。」
「君こそ、西海岸から飛んで帰って来たんじゃないか。」
「俺は機内で寝たし食ったから良いんだ。」

 言われてセイヤーズは素直に立ち上がった。レインは彼の手を見た。少し赤くなっているのを見て尋ねた。

「連中を殴ったのか?」
「うん・・・1人2,3発ずつ殴った。」
「あと100発殴れば良かったのに。」

 レインの言葉にセイヤーズがちょっと笑った。

「本当に・・・そうだな。」

 セイヤーズが戸口まで行くと、レインがまた言った。

「ライサンダーが落ち着いたら、俺たちのアパートに連れて行くからな。外には戻さない。当分の間、俺たちの手元に置く。」
「それは・・・」

 セイヤーズは少し黙ってから、結局小さく頷いて承諾の意を示した。