2019年5月16日木曜日

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 地球人の出番が終わると、各部門の首席執政官達が視察団と挨拶を交わし始めた。その間、地球人達は少し距離を開けて待機していた。JJ・ベーリングはセイヤーズの横に立ち、彼と視察団のファッションについて雑談を始めた。ジェリー・パーカーは疲れた表情で、ジョアン・ターナー・ドーマーと近くの椅子に座った。互いに親しい訳ではないので口を利かなかったが、無視し合うほどでもなく、ターナーがそっと気分転換用のラムネ菓子を手渡すと、パーカーはちょっと驚いて、それから表情を和らげ、目で感謝を伝えて菓子を口に含んだ。淡い甘味と炭酸の刺激が口の中に広がるお菓子だ。
 レインはハイネ局長がコロニー人達のサイン攻めから解放されるのを待って、上司のそばに静かに歩み寄った。周囲に聞こえない程度の低い声で囁いた。

「ライサンダー・セイヤーズと名乗る人物が、成人登録と婚姻許可、妻帯許可、胎児認知届けを提出してきました。」

 ハイネは視察団と執政官の交流をニコニコと眺めながら、囁き返した。

「先刻の情報管理室の急用の件か?」
「そうです。メイン州のポートランド支局から送信されてきました。」

 レインはセイヤーズがこちらに聞き耳を立てていないか、チラリと視線を遣って警戒した。そして端末を出し、送られて来た書類を画面に出すと、そっとハイネに見せた。成人登録申請書、妻帯許可申請書、婚姻許可申請書、胎児認知届けだった。全部同じ人物から出されていた。
 誰も、ライサンダー・セイヤーズの誕生日も生誕地も知らない。しかし、セイヤーズが消えた日から約10ヶ月後、彼が住んでいた山から近い砂漠のラムゼイ博士の研究施設があった辺りの住所が、成人登録申請書に書き込まれていた。傑作なのは、父親の欄に、ダリル・セイヤーズとポール・レインの名前を無理矢理記入してあったことだ。母親の欄には誰の名も書かれていない。これはクローンの子供が出す申請書だ。

「午後から出かけて本人なのか、確認して来たいと思います。」
「直接君が会って話をして来い。」

 とハイネが言った。

「だが、手ぶらでは相手が警戒するだろう。私がそれぞれの書類に署名をして許可と承認を与える。本物なら、君の手で渡してやると良い。偽物なら破棄しなさい。」
「了解しました。」

 その時、コロニー人の中の数人がこちらを向いたので、ハイネとレインはそれぞれ美しい顔に優しい笑みを浮かべて愛想を振りまいた。
 コロニー人達も笑顔で手を振り、また向こうを見たので、レインは話を続けた。

「胎児の性別の欄をご覧になりましたか?」

 ハイネは微かに頷いた。

「信じられんが、支局が失敗るとも思えん。」
「その件に関しても、確認してきます。」