2019年5月12日日曜日

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よりにもよって、こんな時にこんな場所に、何故ダリルが・・・寝ていたんじゃなかったのか?

 レインは振り返った。部屋着姿のダリル・セイヤーズがジムの入り口に立っていた。髪はぼさぼさで、いかにも寝起きの様子だが、目はしっかり開いていた。

「情報管理室から緊急呼び出しだと?」

とハイネが尋ねた。遺伝子管理局のチーフに呼び出しをかけるとなると、情報管理室は極めて重要性の高い通信を外から受信したのだ。セイヤーズが彼に気が付いて、「おはようございます」と挨拶した。

「何だか知りませんが、レイン本人にしか告げられない用件だと言うので、呼びに来ました。彼は電話を忘れて行ったので・・・。」
「忘れたんじゃない、置いて来たんだ!」

 レインはクロワゼット大尉がセイヤーズをジロリと眺めるのを視野の隅で捉えた。拙い・・・。
果たして、クロワゼット大尉はセイヤーズがゲストハウスでの面会に参加したドーマーだと思い出した。視察団の女性達が後で噂していた男じゃないか。レインが18年間探し続けて、やっと見つけ出し、連れ戻した因縁の恋人だ。こんな綺麗な男だったのか。
 クロワゼットは楽しくなった。美しい地球人男性が目の前に大勢いる。その中でもとびきりの上玉が3人、全員揃っている。
 
「緊急ならば、さっさと行った方が良いな、レイン。保安課を怒らせるなよ。」

 ハイネがのんびりと言った。レインをジムから去らせたいのだ。レインは躊躇った。局長も恋人もクロワゼット大尉の嫌がらせから守りたい。しかし、呼び出しを無視出来ない。セイヤーズがじれったそうに言った。

「早く行けよ、ポール。情報管理室は気が短いぞ。」

 仕方なく、レインはジムの出口に向かって歩き出した。セイヤーズがついて来るかと期待したのかゆっくりと歩いて行ったが、セイヤーズはついて行かなかった。セイヤーズはレインとクロワゼット大尉の間に割り込む形で立った。

「クロワゼット大尉?」
「そうだが?」
「視察団は今日の昼にはお帰りになるのでしょう。さっさと部屋に戻って荷造りされてはいかがです?」
「その前に朝の運動をしたくてね・・・」
「成る程ね。」

 セイヤーズがハイネを見た。目で「勝負しても良いですか」と尋ねてきた。ハイネは微かに笑って頷いて見せた。 セイヤーズが現れなくても、彼は自身でクロワゼット大尉と勝負するつもりだったのだ。大尉をここで叩きのめして部下達の仇を取る計画だった。だから、昨夜執政官の1人に頼んで、自身の早朝訓練のスケジュールをさりげなく大尉に囁いてもらったのだ。しかし、セイヤーズが立候補したのであれば、あっさり譲ってやろう。

 この男は昨夜の鬱憤を晴らしたいのだ。

 セイヤーズが大尉に声をかけた。

「お強いそうですね。一つ、お手合わせ願えませんか?」