2019年5月7日火曜日

訪問者 2 2 - 9

 夕方近くに出資者様御一行がドームに帰って来た。今回の団体は泊りがけの旅行を希望しなかったのだ。当然、厨房班は食事の支度を済ませていて、ゲストハウスでビュッフェパーティを行った。
 ケンウッドは出席する必要はないと自身で思ったが、団体側から招待された。ゴーン副長官共々もてなしへの感謝を告げられ、順番に富豪達の話し相手をする羽目になった。
問題のセイヤーズ女史がそばに来た。彼女も礼を述べてから、彼に囁いた。

「今夜、21時にあの子を呼んで下さいます?」
「どうしても、ですか?」

 ケンウッドは相手を怒らせるかも知れないと覚悟しつつ、抗議の声で囁き返した。

「私は賛成しかねますが・・・」
「どうか、宇宙連邦のためだとご理解下さい。」

と女史。

「我が社は一つの惑星政府に匹敵するほどの大企業です。その舵取りをする人間は、凡人では務まりません。役員会は優秀ですが、我が社は同族企業でリーダーが必要なのです。私の息子達は能力不足です。どうしても優秀な子供が必要です。」
「あの男の子供が貴女の希望される才能を持って生まれるとは保証出来ませんよ。」
「わかっています。でも賭けなければなりません。会社が傾けば、惑星規模の失業者が出るのです。これは絶対に防がなくてはなりません。」

 そして彼女はさらに声を低めて彼に言った。

「もし失敗して子供が出来なくても寄付金はそのまま委員会のものです。ご安心下さい。」

 そんなことを心配しているのではない、とケンウッドは言おうとした。しかしそこへ次の順番の富豪が来たので、女史は笑顔を彼に向けてから立ち去ってしまった。
 ケンウッドはその後も女史へ接触を試みたが、セイヤーズ女史は人気者で忙しく、彼の元へ戻って来なかった。
 仕方なく、ケンウッドはトイレに立つフリをして、ホールから出ると、ヤマザキに電話を掛けた。

「ケンタロウ、今すぐハイネに面会出来るかい?」
「ああ、夕御飯が終わる頃だ。入院中の彼は食事時間が早いからね。グズグズしていると寝てしまうぞ。」

 ヤマザキがのんびりした声で答えた。ケンウッドは「直ぐに行く」と応じた。そしてゴーン副長官にメールした。

ーー医療区に行きます。ハイネに面会するだけなので直ぐに戻ります。

 ゴーンから返事が来た。

ーーまだ時間の余裕があります。ごゆっくりと語らって来て下さい。局長によろしく。