2019年5月8日水曜日

訪問者 2 2 - 11

 ケンウッドとハイネは中央研究所の長官執務室に入った。ケンウッドは自身のコンピュータから大急ぎで検体採取の許可申請を遺伝子管理局に提出した。ハイネは自身の端末でそれを確認すると、端末から遺伝子管理局長の承認を入力した。
 ケンウッドは時計を見た。そろそろゲストハウスでの晩餐会は終盤に入る頃だ。長官は視察団の招待客と言う立場なので、会場に戻らなければならない。

「ハイネ、私がセイヤーズに出頭命令を出す。異例だが、違反ではない筈だ。」
「確かにそうです。」
「その間に君はレインに事態を説明してくれないか? 恐らくあの男は接触テレパスでセイヤーズの身に起きたことを知ってしまうだろう。彼が憤る前に、君の口から納得させてやって欲しい。 本来なら私が説明しなければならないが、これから会場へ戻らねばならないのだよ。」

 ハイネはあっさりと承諾した。

「承知しました。部下を納得させるのは私の仕事です。ゲストハウスへお戻りなさい。私は本部へ向かいます。」

 ケンウッドはダリル・セイヤーズに21時に中央研究所に来るようにとメールを送信した。返事は数秒後に来た。一言、「承知しました」だった。
 ケンウッドとハイネは長官執務室を出た。無言で廊下を歩いていると反対側から一人の執政官がやって来た。ハイネがケンウッドに囁いた。

「私はちょっと彼に用事があるので、今夜はここでお別れしましょう。」

 遺伝子管理局長の方から執政官に直接用件を伝えるのは珍しい。しかしケンウッドは気が急いていたので、素直に彼の言葉を受け取った。

「わかった。一人で大騒ぎしてすまなかった。後はよろしく頼むよ。」

 ハイネは頷き、近づいて来た執政官に声を掛けた。ケンウッドは急いでエレベーターに乗り込み、ゲストハウスに向かった。