2019年5月6日月曜日

訪問者 2 2 - 8

 晩餐会は穏やかに進行した。富豪の出資者様達は執政官やドーマーの給仕係には余り関心を向けず、ケンウッドにとって有難いことに、互いのビジネスの話に没頭してくれた。経済や辺境開発の資金繰りの交渉や、兎に角地球へ来てまでわざわざそんなことを話し合うのか? と思える話題ばかりだった。
 ビュッフェタイプのコーヒータイムになるとゴーン副長官がケンウッドのそばに来た。

「実業家ばかりで、遺伝子の解説を理解して下さっているのかどうか、不安ですわ。」

と彼女が囁いた。ケンウッドは彼女を慰めた。

「少なくとも、ドーマー達や出産管理区の地球人女性達に無用の関心をもたれるよりましですよ。」

 ゴーンは昼間、到着したばかりの客を出産管理区とクローン製造部の見学に連れて行ったのだ。

「赤ちゃんや女性達の待遇に関心を持って下さったのは、良かったです。今回の出資者様の半分以上が女性ですからね。地球のファッションにも注意を向けられました。
 クローン製造部はいつもと同じで駆け足でした。試験管の中の胎児は見て気持ちの良いものでないのでしょう。」
「あの人達は自分のお腹で子供を育てたりしない人種だからね。」

 セイヤーズ女史は自腹で子供を育てるつもりだろうか。ケンウッドはまだあの大富豪の希望を受け容れられない己の心を持て余していた。女史は何時セイヤーズを呼ぶのだろう。
 晩餐会に来る前、セイヤーズとセイヤーズ女史は2人きりで外を散歩した。どんな内容の話をしたのか、ケンウッドは尋ねる権利を持たなかったし、セイヤーズからも報告がない。困った要求を受けたのであれば、相談してくれて良さそうだが、セイヤーズは何も言わない。ハイネ局長がいれば相談するのだろうか。それともポール・レイン・ドーマーには何か語ったのだろうか。
 視察団の日程2日目は、観光に当てられていたので、コロニー人達はドームの外に出かけて行った。宇宙では見ることが出来ない植物が多い森林地帯や海を見るために南の地域に出かけた。臨時便の飛行機を運航するので、遺伝子管理局の南方向へ出かける任務は休業だ。つまり、北米南部班、中米班、南米班は1日だけ休んだ。
 たったそれだけなのに、ドームの中の人口が急に増えた感じがして、ドーマー達は朝から遺伝子管理局本部内が賑やかだなぁと思った。ジョン・ケリー・ドーマーと囮捜査官ロイ・ヒギンズも帰って来て、ヒギンズなどは事務仕事がないので朝からジムやプールでくつろいでいた。たまには羽根を伸ばすのも良いだろう。
 問題のクロワゼット大尉も今回は素直に出かけた様子で、ケンウッドはその日の夕方迄は彼自身の業務に専念出来た。