2019年5月26日日曜日

大嵐 2 2 - 5

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーがニューポートランドのライサンダー・セイヤーズの家でFOKを捕縛した際、麻痺光線銃で動きを封じた4人のメンバーを殴りつけ大怪我を負わせた件は、ライサンダーの事情聴取に立ち会った執政官の口からケンウッド長官に報告された。ケンウッドはそれを聞いて頭を抱え込んでしまった。裁判になれば、被告達は遺伝子管理局職員による暴力について申し立てをするだろう。出来ることならドーマー達を裁判所に出廷させたくないドーム行政府としては、これは大問題だった。
 まだ昼前の打ち合わせ会の時間になっていなかったが、ケンウッドは遺伝子管理局本部の局長執務室に電話を掛けた。ネピア・ドーマーが電話口に出ると、ケンウッドは有無を言わさずに命令した。

「局長に長官執務室にすぐに来てもらってくれ。大至急だ。」

 10分後にハイネが来る迄、彼は色々と対策を考えた。ダリル・セイヤーズをドームの外に出したくなかった。そもそも彼を外に出す許可を出していないのだ。ハイネが独断でクロエル同伴と言う条件で外に出す許可を与えた。だがそれを責めるつもりはない。セイヤーズが行かなければ、ライサンダーはFOKに拉致されていたのだ。クロエルも行かなかったし、ケリーだって監視する間にあんな惨劇が屋内で行われていると想像すらしなかっただろう。だから、ケンウッドが考えなければならないのは、セイヤーズが外に出たことを咎めることではなく、これから警察の捜査や裁判にどう対処するか、未来のことだった。
 ハイネがやって来た。日課を終えた直後だったので、気分を害した様子はなく、長官執務室の彼自身の定位置に座ると、ケンウッドを見た。

「ご機嫌斜めのご様子で・・・」

とハイネが言った。呼ばれた理由を知っている、とケンウッドは感じた。

「セイヤーズがFOKのメンバー達を殴って大怪我を負わせた。知っているな?」
「報告書にありました。3人共に書いていましたので。」
「何故私に報告しなかった?」
「地球人サイドの問題だと判断しました。」

 ハイネの逃げの口上だ。コロニー人に介入して欲しくない問題はいつも「地球人サイドの問題」で片付ける。ケンウッドは腹が立った。

「裁判に影響が出る。遺伝子管理局が無抵抗の容疑者を殴って傷を負わせたのだぞ! 悪人共に有利に働くじゃないか!」

 彼はハイネに反論する隙を与えず、電話を掛けた。

「レイン、セイヤーズはいるか?」
「今、アパートにいます。」

 電話の向こうでポール・レイン・ドーマーが答えた。画面の中のケンウッドが赤い顔をして怒りまくっていることに驚いていた。

「すぐ戻ってくる筈です。ライサンダーが事情聴取を終えたので、様子を見に行っているだけですから。」
「戻ったら、すぐに私の部屋に出頭させろ。」

 レインは、長官の立腹の原因に思い当たったらしい。暗い表情になった。神妙に答えた。

「承知しました。」

 ケンウッドは電話を切り、ハイネを振り返った。遺伝子管理局長は目を閉じて背もたれに体を預けていた。