2017年1月22日日曜日

訪問者 11

  視察団の日程2日目は、観光に当てられていたので、コロニー人達はドームの外に出かけて行った。宇宙では見ることが出来ない植物が多い森林地帯や海を見るために南の地域に出かけた。臨時便の飛行機を運航するので、遺伝子管理局の南方向へ出かける任務は休業だ。つまり、北米南部班、中米班、南米班は1日だけ休んだ。
 たったそれだけなのに、ドームの中の人口が急に増えた感じがして、ダリル・セイヤーズ・ドーマーは朝から本部内が賑やかだなぁと思った。ジョン・ケリー・ドーマーと囮捜査官ロイ・ヒギンズも帰って来て、ヒギンズなどは事務仕事がないので朝からジムやプールでくつろいでいた。たまには羽根を伸ばすのも良いだろう。
 ケリー・ドーマーは医療区にまだ入院中のパトリック・タン・ドーマーを見舞った。タンは体の傷は癒えたものの、精神的にまだ不安定でドアの開閉や突然人の声が聞こえたりするとビクッと怯える。それに大勢の人から見られていると恐いと言って、食堂などの広い場所にも出たがらない。精神科医のキャリー・ワグナー・ドーマーが彼の担当をしている。彼女は徐々に面会人の人数を増やして彼を元の生活に戻れるようにリハビリさせていた。ケリーはだから歓迎された。夕食時にチーフのポール・レイン・ドーマーからタンの様子を聞かれた時、ケリーは楽観的な返事をした。
 
「当人は早く仕事に戻りたがっているんです。神経質になり過ぎているので、僕は彼を訓練所に連れて行って、2人で射撃訓練をして時間を過ごしました。パットは初めのうちは的を外していましたが、徐々に真ん中に当てる様になり、最後は僕より点数が高かった。
本人も結果を見て、少し自信を取り戻したみたいで、次は格闘技の練習をしようと彼の方から言い出しました。
 キャリー先生は彼が他人の手を怖がると言っていましたが、柔道をしている間は少しもそんな気配はありませんでした。
 彼はもう少ししたら、退院出来ますよ。」

  キャリーの夫のクラウスも同意見だったので、ポールは安心した。タンは自信喪失して対人恐怖症になっているのだろう。クロワゼット大尉につきまとわれた時に完璧に無視して追い払った、誇りに満ちたタンが早く戻って来て欲しい、と彼は思った。

「コロニー人の視察団が帰る迄、パットは連中に見つからない方が良いだろう。明日は医療区から出さないよう、医療長に言っておく。」

 クロワゼット大尉が治療の成果を台無しにしかねない。するとクラウスが、自分が妻に連絡しておきます、とメールを送った。彼の愛妻はすぐに承知したと返事を送ってきた。
 ダリルの端末にメールが入った。見ると、ケンウッド長官からで、21時に中央研究所に来るようにとあった。呼び出しには遅い時間だが、コロニー人は余り時刻を気にしない。長官が何の用だろうと思いつつ、ダリルはポールにメールを見せた。ポールが眉を寄せた。

「夜の呼び出しは不吉だな。」

と彼が呟いた。

「君がそんな単語を言うなんて珍しい。」
「そう感じたのだから言ったまでだ。」

 ポールは、視察団が観光から帰るのは何時だったろうと考えた。