2017年1月26日木曜日

訪問者 17

 ハイネ局長が闘技場から出た。入れ替わりにクロワゼット大尉とダリル・セイヤーズ・ドーマーが中に入った。大尉がダリルに言った。

「運動着に着替えてこい。胴着の方が良ければ、僕も着替えるが?」
「いいえ、これで充分です。」

 ダリルは身につけている部屋着を見回した。素足にスニーカーだったので、靴は脱いだ。

「実戦では敵が着替えを待ってくれることはないでしょう? 今のままの服装で充分ですよ。」

 闘技場の周囲にジム内にいたドーマーや執政官が集まり始めていた。皆大尉が何者か知っている。どんな人間かも大体知っている。そのコロニー人に1人のドーマーが闘いを挑んでいるのだ。もしかすると本日最大のイベントかも知れない。
 ダリルの言葉に、実戦経験があるクロワゼット大尉が赤くなった。

「ドームの囲いの中でぬくぬくと大事に育てられた地球人が、宇宙軍の精鋭だった僕を軽んじると言うのか?」

 彼は鼻先で笑った。

「僕が勝ったら、おまえのその服をひん剥いてここで素っ裸にしてやる。」

 ダリルも微笑した。

「では、私が勝ったら、ここで貴方はこのドーム内で迷惑をかけた人々に謝罪して下さいね。」

 クロワゼット大尉は「いいとも」と言うなり、いきなり拳を突き出した。しかしダリルは僅かな動きでそれを躱した。大尉は勢いをそがれたが、そのまま態勢を持ち直して次の攻撃に出た。ダリルはそれもひょいと躱した。そして大尉の背中を平手でパンッと叩いた。からかったのだ。大尉の顔が怒りで歪んだ。
 ダリルとクロワゼットの闘いを眺めていたハイネ局長は時計を見た。

「これはいかん、朝ご飯の時間だ。」

 規則正しい生活が長生きの秘訣だと思っている彼は、忙しく闘っている部下に声を掛けた。

「セイヤーズ、先に戻って朝飯にするからな! 君は今日は休みだが、朝ご飯はしっかり食えよ。」