2017年1月25日水曜日

訪問者 16

 よりにもよって、こんな時にこんな場所に、何故ダリルが・・・寝ていたんじゃなかったのか?

 ポールは振り返った。部屋着姿のダリルがジムの入り口に立っていた。髪はぼさぼさで、いかにも寝起きの様子だが、目はしっかり開いていた。

「情報管理室から緊急呼び出しだと?」

とハイネ局長が尋ねた。ダリルは彼に気が付いて、「おはようございます」と挨拶した。

「何だか知りませんが、レイン本人にしか告げられない用件だと言うので、呼びに来ました。彼は電話を忘れて行ったので・・・。」
「忘れたんじゃない、置いて来たんだ!」

 ポールはクロワゼットがダリルをジロリと眺めるのを視野の隅で捉えた。拙い・・・。
果たして、クロワゼット大尉はダリルがゲストハウスでの面会に参加したドーマーだと思い出した。視察団の女性達が後で噂していた男じゃないか。
 
「緊急ならば、さっさと行った方が良いな、レイン。保安課を怒らせるなよ。」

 ハイネ局長がのんびりと言った。ポールをジムから去らせたいのだ。ポールは躊躇った。局長も恋人もクロワゼット大尉の嫌がらせから守りたい。しかし、呼び出しを無視出来ない。ダリルがじれったそうに言った。

「早く行けよ、ポール。情報管理室は気が短いぞ。」

 仕方なく、ポールはジムの出口に向かって歩き出した。ダリルがついて来るかと期待したが、来なかった。ダリルはポールとクロワゼット大尉の間に割り込む形で立った。

「クロワゼット大尉?」
「そうだが?」
「視察団は今日の昼にはお帰りになるのでしょう。さっさと部屋に戻って荷造りされてはいかがです?」
「その前に朝の運動をしたくてね・・・」
「成る程ね。」

 ダリルは局長を見た。目で「勝負しても良いですか」と尋ねると、ハイネ局長が微かに微笑して頷いた。 ダリルが現れなくても、局長は自身でクロワゼット大尉と勝負するつもりだったのだ。大尉をここで叩きのめして部下達の仇を取る計画だった。だから、昨夜執政官の1人に頼んで、自身の早朝訓練のスケジュールをさりげなく大尉に囁いてもらったのだ。しかし、ダリルが立候補したのであれば、あっさり譲ってやろう。

 この男は昨夜の鬱憤を晴らしたいのだ。

 ダリルが大尉に声をかけた。

「お強いそうですね。一つ、お手合わせ願えませんか?」