「レインの様子はどうですか?」
ダリル・セイヤーズ・ドーマーがハイネ局長に最初に言った言葉がそれだった。局長は、「普通に発狂しているよ」と言った。
「飽和した薬剤が体から出ていく迄、彼は正気を保てないからな。今日の昼飯時には、君を捜して緩衝材の床を掘り返そうとしていた。今夜辺り、JJを求めて壁を剥がそうとするんじゃないか?」
そしてハイネはダリルの脚を眺めた。
「痛むか?」
「少し・・・痛みがある方が治りが早いとかで、あまり強い薬をもらえなかったんです。」
「人間の治癒力に任せると言うことだな。しかし、その程度で済んで良かった。ニュカネンが連絡して来た時は、君が今にも死ぬ様なことを言っていたからな。」
「彼はいつも最悪の事態を考える質で・・・私が撃ち合いをしている時に電話を掛けてきたのですが、その後でローズタウンの中部支局に救護班とヘリの応援要請を出したんです。その時、私はまだ怪我をする前だったのですが・・・」
「彼は用意周到なだけだ。ドーム内では彼のことを堅物とか融通が利かないとか批判する者も多いが、あの堅実さがあるから、出張所を1人で経営出来ているのだ。実際、彼が連れて行った救護班のお陰で君は現場で手術してもらえたのだ。何もせずにドーム迄弾丸を脚に入れたまま帰っていたら、今頃はもっと酷い状態になっていた可能性もある。」
「ええ・・・ニュカネンと中部支局救護班には感謝しています。」
「現場で何があったかは、後日報告書にまとめて提出すれば良い。今日はもうアパートに帰って休め。大人しくしていれば、レインが退院する前に普通に歩けるようになるはずだ。」
ダリルが「わかりました」と答えて車椅子の方向を変えようとした時、ハイネ局長の端末に電話が着信した。局長は画面を見て、発信者の名前を読むと渋い顔をした。
「誰かがケンウッド長官に君の外出を告げ口したらしい。」
そして電話に出た。ダリルは車椅子を止めて、局長が電話で長官のお小言をもらうのを聞いていた。自分が関係した事なので、部屋から出るのは気が引けた。ハイネ局長は「ええ」とか「はい」とか短い返答で長官の責めをいなしていた。声はしおらしいが、表情は平静だ。ローガン・ハイネ・ドーマー程の経験豊かなドーマーは、コロニー人がどんなに怒っても恐くないのだ。
そのうちにハイネは長官の叱責を受けるのに飽きたらしい。
「そんなに心配なさるのでしたら、当人に仰って下さい。ここにいますから。」
そして、いきなりダリルに端末を投げて寄越した。車椅子のダリルに充分受け止められる様、勢いも距離も高さも計算して投げて来たので、ダリルは余裕で受け止めた。
「セイヤーズです。」
「脚を撃たれたそうだな。」
「撃たれたと言うより、闇雲に乱射された弾丸が1発、部屋の中で跳ね回って私の脚に当たっただけですよ。」
「お気軽に言うな! 出血が多くて危なかったそうじゃないか。救護班の到着が半時間遅ければ、君は死んでいたと言う話だ。」
「いや・・・痛みが酷くて気絶しかかっただけで・・・」
「君は地球の運命を背負っているのだぞ。それを自覚してもらわないと困る。2度とそんな危険な任務を受けるな!」
「あ、否、それは誤解です、長官。私は只ラムゼイ博士のジェネシスを迎えに行っただけで、FOKも偶然彼女を誘拐しようと来ていて鉢合わせしただけですよ。」
「君が出向く必要はなかっただろう?」
「いえ・・・シェイは私だから話を聞いてくれる、と思ったので、出かけたのです。」
「何故君だったら彼女が話を聞いてくれるのだ?」
「彼女はライサンダー・・・私の息子を知っています。息子は私に似ています。実際、彼女は一目で私が何者か悟りました。他の局員だったら、彼女は逃げてしまったはずです。」
電話の向こうでケンウッド長官の深い溜息が聞こえた。
「君は鎖で繋いでもいつの間にか首輪を抜けて逃げる犬みたいなヤツだ。止めても無駄なのだろう・・・しかし、これだけは守ってくれ。外出する時は、必ず誰かを同伴すること。決して1人になるな。」
「今回も1人ではありませんでした。航空班のマイケル・ゴールドスミス・ドーマーがいました。彼がFOKのグリソムを捕まえ、シェイを見つけて保護して、私の負傷をニュカネンに通報してから応急処置をしてくれました。今朝の事件は、ゴールドスミス・ドーマーの手柄です。」
ダリルの手からハイネ局長は端末を取り上げた。
「長官、お聞きの通り、セイヤーズは重傷を負っても一向にへこたれていませんから。これからも外出するでしょうな。」
そして片手を振ってダリルに「帰れ」と合図を送った。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーがハイネ局長に最初に言った言葉がそれだった。局長は、「普通に発狂しているよ」と言った。
「飽和した薬剤が体から出ていく迄、彼は正気を保てないからな。今日の昼飯時には、君を捜して緩衝材の床を掘り返そうとしていた。今夜辺り、JJを求めて壁を剥がそうとするんじゃないか?」
そしてハイネはダリルの脚を眺めた。
「痛むか?」
「少し・・・痛みがある方が治りが早いとかで、あまり強い薬をもらえなかったんです。」
「人間の治癒力に任せると言うことだな。しかし、その程度で済んで良かった。ニュカネンが連絡して来た時は、君が今にも死ぬ様なことを言っていたからな。」
「彼はいつも最悪の事態を考える質で・・・私が撃ち合いをしている時に電話を掛けてきたのですが、その後でローズタウンの中部支局に救護班とヘリの応援要請を出したんです。その時、私はまだ怪我をする前だったのですが・・・」
「彼は用意周到なだけだ。ドーム内では彼のことを堅物とか融通が利かないとか批判する者も多いが、あの堅実さがあるから、出張所を1人で経営出来ているのだ。実際、彼が連れて行った救護班のお陰で君は現場で手術してもらえたのだ。何もせずにドーム迄弾丸を脚に入れたまま帰っていたら、今頃はもっと酷い状態になっていた可能性もある。」
「ええ・・・ニュカネンと中部支局救護班には感謝しています。」
「現場で何があったかは、後日報告書にまとめて提出すれば良い。今日はもうアパートに帰って休め。大人しくしていれば、レインが退院する前に普通に歩けるようになるはずだ。」
ダリルが「わかりました」と答えて車椅子の方向を変えようとした時、ハイネ局長の端末に電話が着信した。局長は画面を見て、発信者の名前を読むと渋い顔をした。
「誰かがケンウッド長官に君の外出を告げ口したらしい。」
そして電話に出た。ダリルは車椅子を止めて、局長が電話で長官のお小言をもらうのを聞いていた。自分が関係した事なので、部屋から出るのは気が引けた。ハイネ局長は「ええ」とか「はい」とか短い返答で長官の責めをいなしていた。声はしおらしいが、表情は平静だ。ローガン・ハイネ・ドーマー程の経験豊かなドーマーは、コロニー人がどんなに怒っても恐くないのだ。
そのうちにハイネは長官の叱責を受けるのに飽きたらしい。
「そんなに心配なさるのでしたら、当人に仰って下さい。ここにいますから。」
そして、いきなりダリルに端末を投げて寄越した。車椅子のダリルに充分受け止められる様、勢いも距離も高さも計算して投げて来たので、ダリルは余裕で受け止めた。
「セイヤーズです。」
「脚を撃たれたそうだな。」
「撃たれたと言うより、闇雲に乱射された弾丸が1発、部屋の中で跳ね回って私の脚に当たっただけですよ。」
「お気軽に言うな! 出血が多くて危なかったそうじゃないか。救護班の到着が半時間遅ければ、君は死んでいたと言う話だ。」
「いや・・・痛みが酷くて気絶しかかっただけで・・・」
「君は地球の運命を背負っているのだぞ。それを自覚してもらわないと困る。2度とそんな危険な任務を受けるな!」
「あ、否、それは誤解です、長官。私は只ラムゼイ博士のジェネシスを迎えに行っただけで、FOKも偶然彼女を誘拐しようと来ていて鉢合わせしただけですよ。」
「君が出向く必要はなかっただろう?」
「いえ・・・シェイは私だから話を聞いてくれる、と思ったので、出かけたのです。」
「何故君だったら彼女が話を聞いてくれるのだ?」
「彼女はライサンダー・・・私の息子を知っています。息子は私に似ています。実際、彼女は一目で私が何者か悟りました。他の局員だったら、彼女は逃げてしまったはずです。」
電話の向こうでケンウッド長官の深い溜息が聞こえた。
「君は鎖で繋いでもいつの間にか首輪を抜けて逃げる犬みたいなヤツだ。止めても無駄なのだろう・・・しかし、これだけは守ってくれ。外出する時は、必ず誰かを同伴すること。決して1人になるな。」
「今回も1人ではありませんでした。航空班のマイケル・ゴールドスミス・ドーマーがいました。彼がFOKのグリソムを捕まえ、シェイを見つけて保護して、私の負傷をニュカネンに通報してから応急処置をしてくれました。今朝の事件は、ゴールドスミス・ドーマーの手柄です。」
ダリルの手からハイネ局長は端末を取り上げた。
「長官、お聞きの通り、セイヤーズは重傷を負っても一向にへこたれていませんから。これからも外出するでしょうな。」
そして片手を振ってダリルに「帰れ」と合図を送った。