2017年1月9日月曜日

誘拐 33

 マイケル・ゴールドスミス・ドーマーは建物の中に入った。中はメチャクチャに破壊されていた。ガラスや陶器と言った割れ物類が悉く割れていた。天井の照明も破壊され、壁や天井に無数の弾痕があった。マイケルがセイヤーズの名を呼ぶと、奥の部屋で返事があった。マイケルはガラス等の破片を踏みつけぬよう用心深く歩いてカウンターの向こう側へ入った。
 カウンター奥に男が1人倒れていた。服装からしてドーマーではない。マイケルは端末を向けて、男が生存していることを確認した。近寄って、見たところ怪我はない、と判断した。瞬きをしたので、麻痺光線で撃たれたのだな、とわかった。麻痺して倒れていたので、銃の乱射から逃れたのだ。撃ったのはセイヤーズだ。だから、こいつは「敵」だ。
マイケルはその男に「そこで寝てろ」と言い置いて、厨房に入った。
 ダリル・セイヤーズ・ドーマーはテーブルの向こうで蹲っていた。

「無事か?」
「無事とは言い難い。」

 ダリルの右ふくらはぎから出血していた。ダリルは自身のシャツを裂いて止血帯を作っている最中だった。

「撃たれたのか?」
「弾が跳ね回って、当たったのだ。想定外だ。」

 マイケルはニュカネンに電話を掛けた。

「ニュカネン、ヘリは来たか?」
「今到着した。これから乗るところだ。」
「あんたは来なくても良いから、救護班を寄越せ。セイヤーズが撃たれた。」
「ぬぁにぃいいい!」

 ニュカネンは電話を切った。マイケルは「礼儀を知らん男だ」とぶつくさ言いながら端末を仕舞った。

「一体何があったんだ?」
「FOKのニコライ・グリソムと撃ち合いになった。向こうが自動小銃を出して来たので、鏡の反射を使って光線銃を撃ったら、光線がカウンターの上にあったガラス容器に当たって乱反射した。それでグリソムの野郎がパニックに陥って銃を乱射しながら逃げたんだ。まだ外にいる可能性がある。」
「そいつなら、トラックに閉じ込めた。」

 マイケルは時計を見た。

「そろそろトラックに当てた光子弾の電力が消える頃だ。一発麻痺光線をお見舞いしてくるから、君は動くな。」

 5分後にマイケルが厨房に戻って来ると、ダリルは床を這って奥の小さなドアに向かって移動しようとしていた。

「動くなと言ったろうが!言うことを聞かんドーマーだ。」
「あのドアの向こうで音がしたんだよ。」

 それで、マイケルはヘリの生体センサーで見た画像を思い出した。

「しまった、4人目を忘れていた!」
「4人目?」

 ダリルが驚いた。

「この家の中に、4人いたのか?」
「生体センサーでは4人映っていた。」

 マイケルは麻痺光線銃を構えて、小さなドアのそばへ行った。誰かいるのか、と声を掛けたが返事はなかった。しかし、ドンドンと音が聞こえた。彼はダリルを振り返った。ダリルが頷いた。人が中に居る。
 マイケルがドアを開いた。彼は中を覗き、「おお!」と声を上げた。

「女だ! 女が縛られている!」

 彼はドアの中に入っていった。ダリルは彼が中に居た人物に優しく声を掛けるのを聞いていた。脚が猛烈に痛むが、4人目の人物が気になる。
 やがて女性の声が礼を言うのが聞こえ、マイケルが1人の女性を抱く様にしてドアの外へ誘導して出て来た。
 ダリルは彼女の顔を見て、息を呑んだ。モンタージュの顔にそっくりだ。

「シェイ?」

 名を呼ぶと、彼女はダリルに気が付いた。誰かしら?と言いたげに彼を見下ろして、そしてハッとした表情になった。彼女は、ダリルに呼びかけた。

「父さん? 貴方、ライサンダーの父さんね?」