女装大会の結果は、優勝者が医療区に新しく配属された若い執政官の「シンデレラ姫」、準優勝が「旅客航宙船のフロントレディ」に扮したシステムエンジニアの執政官、特別賞が「不思議の国のアリス」で大好評だった保安課のゴメス少佐となった。
ドームのパパラッチサイトでは、優勝者の画像特集で、素顔やコンテストの「恥ずかしい場面」が満載だった。これは、ドームに着任したばかりのコロニー人なら誰もが受ける洗礼でもある。パパラッチは新人が来るとこっそり追いかけて撮影しているのだ。面白い画像が撮れても、その時はアップしない。当人がまだドーム全体に知られていないので、公開してもドーマー達に受けないからだ。新人が何らかの形で知られるようになると、小出しとなる。そして、女装大会での優勝ともなれば、一挙大放出だ。
「ああ、お気の毒に・・・」
ダリルは同情した。彼自身もパパラッチに狙われた経験が多数あるので、新人執政官の気持ちがわかる。
サイトにはおまけとして他の執政官達の女装画像や動画、それに注目を集めたドーマー達もアップされていた。ダリルとポールは、表彰式を見る目的でドーマー達が一般食堂付近に大集合してひしめき合った時間に、彼等に紛れ込んで夕食にありついた。だからテレビクルーにもパパラッチにも見つからずに済んだ。もっとも、来年も同じ手が通用するかどうかはわからない。
ポールはゴメス少佐がアリスに化けた方法を考えていた。ガタイがでかいことを除けば、少佐は実に上手に少女に変身したのだ。どうすれば、あの筋骨隆々の体を女の子に仕上げることが出来るのか、いくら考えても想像がつかなかった。
2人は食堂で昼食を取っていた。ポール・レイン・ドーマーは「飽和」を脱して以来、まだ一度もドームの外に出ていない。支局巡りをしている部下達から様々な許可申請の書類が送られて来るので、処理に追われているのだが、もう一つの理由をダリルは勘付いていた。ポールは抗原注射なしで外に出るのが恐いのだ。「通過」で体験した頭痛や吐き気や腹痛をまた経験するのかと思うと、外出に尻込みしてしまう。もっとも、これはポールが意気地無しなのではなく、「通過」を済ませたドーマーなら殆どの者が同じ経験をする。何時勇気を振り絞って外に出るか、それが問題だ。
ダリルは自分達のテーブルに近寄ってくる執政官に気が付いた。ポールのファンクラブの人間だ。彼はダリルに気づかれたと察しても、臆することなく、ドーマー達のそばへ来た。ダリルの目を見て、「やぁ」と声を掛け、それからポールにも「元気かい」と話しかけた。
ポールは大概ファンクラブに声を掛けられても無視するのだが、その執政官は嫌いではないらしく、挨拶を返した。「ちょっとお邪魔するよ」と言って、執政官は近くのテーブルの椅子を引き寄せて座った。
「来週、コロニーから客が来るぞ。」
「客? また観光客か?」
「否、視察団だ。『地球人類復活委員会』のスポンサー様。」
「ああ・・・」
ポールが渋い顔をした。
「金を搾り取る為に、連中の機嫌を取れ、と言うことか。」
「そうじゃない、連中がここに滞在する3日間、何処かに出かけてくれ。『通過』をやったから、君はもう3日ぐらい外に居ても大丈夫なはずだ。」
ダリルには、執政官が言っている意味がイマイチ理解出来なかったので、質問した。
「ポールがここに居ては都合が悪いのか?」
執政官はダリルに向き直った。
「否、ポールにとって都合が悪いのさ。」
ダリルは説明を求めてポールを見たが、ポールは言いたくないのか黙っていた。それで執政官が代わりに理由を教えてくれた。
「視察団の中に、宇宙軍の人間が参加している。彼等は地球人が本来の姿以外に進化しないよう、監視に来るんだ。つまり、セイヤーズ、君の様な進化型遺伝子を持つ地球人が増えない様に見張るんだよ。」
「私を監視するのはわかる。どうしてポールが・・・」
「ポールの能力の問題じゃないんだ。」
執政官はちょっと躊躇ってから、打ち明けた。
「その査察に来る軍人が、ポールにご執心なんだ。」
ダリルはリン長官を思い出した。いやぁな気分になる・・・。執政官が取り繕うように言い足した。
「否、ストーカーとか、そう言うのじゃない。なんと言うか、ちょっかいを出したがるんだ。兎に角、1回の訪問に1度は彼を怒らせてみたいと言う、そう言う類のちょっかいだ。」
ポールがやっと口を開いた。
「俺だけじゃないぞ、維持班のドーマー達は外へ逃げられないからな、アイツが来る度に誰かが悪戯されたり嫌がらせを受けている。委員会はどうしてあんなヤツの地球来訪を許すんだ? 他のドームでもやっているんだろ?」
「彼はアメリカ・ドームの担当なんだよ。他所へは別の軍人が派遣される。聞いたところでは、うちよりはましな人達ばかりだそうだ。」
執政官はまたダリルを見た。
「セイヤーズも危ないなぁ・・・しかし君を外に出す訳にはいかないし・・・」
「何故だ? 俺の監視付きでセイヤーズも外に避難させたらどうなんだ?」
「それが出来ないんだ。アイツは、先頃のケンウッド長官の月での発表でセイヤーズのX染色体の特殊性を聞いた。それで、セイヤーズを見たがっている。」
「セイヤーズは鑑賞用動物ではない。」
ポールは憮然として言った。
「ダリルが外に出られないのであれば、俺も残る。」
ドームのパパラッチサイトでは、優勝者の画像特集で、素顔やコンテストの「恥ずかしい場面」が満載だった。これは、ドームに着任したばかりのコロニー人なら誰もが受ける洗礼でもある。パパラッチは新人が来るとこっそり追いかけて撮影しているのだ。面白い画像が撮れても、その時はアップしない。当人がまだドーム全体に知られていないので、公開してもドーマー達に受けないからだ。新人が何らかの形で知られるようになると、小出しとなる。そして、女装大会での優勝ともなれば、一挙大放出だ。
「ああ、お気の毒に・・・」
ダリルは同情した。彼自身もパパラッチに狙われた経験が多数あるので、新人執政官の気持ちがわかる。
サイトにはおまけとして他の執政官達の女装画像や動画、それに注目を集めたドーマー達もアップされていた。ダリルとポールは、表彰式を見る目的でドーマー達が一般食堂付近に大集合してひしめき合った時間に、彼等に紛れ込んで夕食にありついた。だからテレビクルーにもパパラッチにも見つからずに済んだ。もっとも、来年も同じ手が通用するかどうかはわからない。
ポールはゴメス少佐がアリスに化けた方法を考えていた。ガタイがでかいことを除けば、少佐は実に上手に少女に変身したのだ。どうすれば、あの筋骨隆々の体を女の子に仕上げることが出来るのか、いくら考えても想像がつかなかった。
2人は食堂で昼食を取っていた。ポール・レイン・ドーマーは「飽和」を脱して以来、まだ一度もドームの外に出ていない。支局巡りをしている部下達から様々な許可申請の書類が送られて来るので、処理に追われているのだが、もう一つの理由をダリルは勘付いていた。ポールは抗原注射なしで外に出るのが恐いのだ。「通過」で体験した頭痛や吐き気や腹痛をまた経験するのかと思うと、外出に尻込みしてしまう。もっとも、これはポールが意気地無しなのではなく、「通過」を済ませたドーマーなら殆どの者が同じ経験をする。何時勇気を振り絞って外に出るか、それが問題だ。
ダリルは自分達のテーブルに近寄ってくる執政官に気が付いた。ポールのファンクラブの人間だ。彼はダリルに気づかれたと察しても、臆することなく、ドーマー達のそばへ来た。ダリルの目を見て、「やぁ」と声を掛け、それからポールにも「元気かい」と話しかけた。
ポールは大概ファンクラブに声を掛けられても無視するのだが、その執政官は嫌いではないらしく、挨拶を返した。「ちょっとお邪魔するよ」と言って、執政官は近くのテーブルの椅子を引き寄せて座った。
「来週、コロニーから客が来るぞ。」
「客? また観光客か?」
「否、視察団だ。『地球人類復活委員会』のスポンサー様。」
「ああ・・・」
ポールが渋い顔をした。
「金を搾り取る為に、連中の機嫌を取れ、と言うことか。」
「そうじゃない、連中がここに滞在する3日間、何処かに出かけてくれ。『通過』をやったから、君はもう3日ぐらい外に居ても大丈夫なはずだ。」
ダリルには、執政官が言っている意味がイマイチ理解出来なかったので、質問した。
「ポールがここに居ては都合が悪いのか?」
執政官はダリルに向き直った。
「否、ポールにとって都合が悪いのさ。」
ダリルは説明を求めてポールを見たが、ポールは言いたくないのか黙っていた。それで執政官が代わりに理由を教えてくれた。
「視察団の中に、宇宙軍の人間が参加している。彼等は地球人が本来の姿以外に進化しないよう、監視に来るんだ。つまり、セイヤーズ、君の様な進化型遺伝子を持つ地球人が増えない様に見張るんだよ。」
「私を監視するのはわかる。どうしてポールが・・・」
「ポールの能力の問題じゃないんだ。」
執政官はちょっと躊躇ってから、打ち明けた。
「その査察に来る軍人が、ポールにご執心なんだ。」
ダリルはリン長官を思い出した。いやぁな気分になる・・・。執政官が取り繕うように言い足した。
「否、ストーカーとか、そう言うのじゃない。なんと言うか、ちょっかいを出したがるんだ。兎に角、1回の訪問に1度は彼を怒らせてみたいと言う、そう言う類のちょっかいだ。」
ポールがやっと口を開いた。
「俺だけじゃないぞ、維持班のドーマー達は外へ逃げられないからな、アイツが来る度に誰かが悪戯されたり嫌がらせを受けている。委員会はどうしてあんなヤツの地球来訪を許すんだ? 他のドームでもやっているんだろ?」
「彼はアメリカ・ドームの担当なんだよ。他所へは別の軍人が派遣される。聞いたところでは、うちよりはましな人達ばかりだそうだ。」
執政官はまたダリルを見た。
「セイヤーズも危ないなぁ・・・しかし君を外に出す訳にはいかないし・・・」
「何故だ? 俺の監視付きでセイヤーズも外に避難させたらどうなんだ?」
「それが出来ないんだ。アイツは、先頃のケンウッド長官の月での発表でセイヤーズのX染色体の特殊性を聞いた。それで、セイヤーズを見たがっている。」
「セイヤーズは鑑賞用動物ではない。」
ポールは憮然として言った。
「ダリルが外に出られないのであれば、俺も残る。」