リトル・セーラムは戸数10ばかりの小さな集落だった。幹線道路が集落の真ん中を通っているので、エネルギーステーションと食堂が1軒ずつあるだけで、残りは空き家か農家だ。道路の両側は平坦な麦畑が広がっており、隣の村まで永遠に麦の海が続いている様だ。
ヘリのパイロットは何処に着陸すべきか迷っていた。麦畑に着陸するのはたやすいが、それでは農家に迷惑を掛ける。第1、乗客のダリル・セイヤーズ・ドーマーが「元農夫」なので、麦を押し潰すと言う暴挙を許さなかった。
「だけど、空いてる場所がないんだよね。せめてグラウンドでもあれば良いのに・・・」
「道路に降りてくれ。私が降りたらすぐ出張所に帰れば良い。用事が済んだら、連絡するから。」
「あんたを1人にするなと言われているんですけどぉ?」
「それじゃ、ずっと上空を旋回していれば? 燃料が無くなっても知らないから。」
つい意地悪を言ってしまってから、ダリルは航空免許取得が遠のくのを感じた。
パイロットは「遺伝子管理局の馬鹿野郎」と呟いて、ヘリを路上に降下させた。そしてダリルが降りると、さっさと飛び去って行った。
服の埃を払ってから、ダリルは集落に向かって歩き始めた。身につけている装備は、麻痺光線銃と端末だけだ。しかしリトル・セーラムにそれ以上の武器が必要な危険が存在するとも思えなかった。
遠くの麦畑でトラクターが作業しているのが見えた。刈り取りをしているのだな、とダリルは思った。昨年の今頃は彼も山の家の畑で仕事をしていたのだ。後ろにはライサンダーがいて、しっかり働いてくれていた。幸せだった。今の境遇が不幸だとは思わないが、山の家の生活ほどの楽しさがあるかと言えば、答えに窮する。
維持班の園芸課に転属しようかな・・・
しかし、園芸課に入ってもライサンダーはいない。ダリルは頭を振って、弱気を振り払った。
集落の入り口に到着した。トラックが一台、クラクションを鳴らして彼を追い越したが、集落には停まらずに走り抜けて行った。
集落は静かだった。ダリルは家々の玄関口のステップに砂埃が積もっているのに気が付いた。誰も住んでいないのか?
エネルギーステーションには1台のトラックが居て、充電中だった。店の人は姿が見えない。セルフスタンドなので、機械任せなのだろう・・・一旦前を通り過ぎてから、彼は足を止めた。充電器は動いているのか?
振り返ると、機械は全てのライトが消えており、デジタル表示の料金表は真っ暗だ。トラックは何をしているのだ?
ダリルは銃のグリップに手を掛けながらトラックに近づいた。外から運転席の中は見えない。彼はドアをノックしてみた。応答がなかったので、ドアを開けてみると、あっさり開いた。中は空だった。空だが、生活の痕はある。数時間前迄誰かが乗っていたのだ。
ダリルは道路を見て、スタンドの隣の家を見た。その家がどうやら食堂らしく、中で灯りが点っていた。窓越しに人が座っているのが見えた。入り口の上に看板が掲げられており、「ダニーのダイニング」と書かれていた。
集落の中で、唯一人の気配がある建物だ。
トラックの運転手は食堂にいるのだろうか? しかし、死んだ機械に充電ケーブルを繋いで何をしてるのだ?
ダリルは上着で銃を隠し、「ダニーのダイニング」の入り口に近づいた。木製のスイングドアを開いて中に入ると、10席ばかりのカウンターとテーブルが3セットの細長い店舗だった。レトロな内装で、黒光するカウンターの向こうにグラスや酒のボトルの棚があり、ちょび髭の丸顔の中年男が1人、皿を拭いていた。奥のカウンター席に男が1人、珈琲カップを前に置いて端末で新聞を読んでいた。
女性は奥の厨房か?
ちょび髭がダリルの入店に気が付いて顔を向けた。
「いらっしゃい、食事ですか?」
「珈琲を一つ・・・」
ダリルは入り口に近いカウンター席に座った。
ヘリのパイロットは何処に着陸すべきか迷っていた。麦畑に着陸するのはたやすいが、それでは農家に迷惑を掛ける。第1、乗客のダリル・セイヤーズ・ドーマーが「元農夫」なので、麦を押し潰すと言う暴挙を許さなかった。
「だけど、空いてる場所がないんだよね。せめてグラウンドでもあれば良いのに・・・」
「道路に降りてくれ。私が降りたらすぐ出張所に帰れば良い。用事が済んだら、連絡するから。」
「あんたを1人にするなと言われているんですけどぉ?」
「それじゃ、ずっと上空を旋回していれば? 燃料が無くなっても知らないから。」
つい意地悪を言ってしまってから、ダリルは航空免許取得が遠のくのを感じた。
パイロットは「遺伝子管理局の馬鹿野郎」と呟いて、ヘリを路上に降下させた。そしてダリルが降りると、さっさと飛び去って行った。
服の埃を払ってから、ダリルは集落に向かって歩き始めた。身につけている装備は、麻痺光線銃と端末だけだ。しかしリトル・セーラムにそれ以上の武器が必要な危険が存在するとも思えなかった。
遠くの麦畑でトラクターが作業しているのが見えた。刈り取りをしているのだな、とダリルは思った。昨年の今頃は彼も山の家の畑で仕事をしていたのだ。後ろにはライサンダーがいて、しっかり働いてくれていた。幸せだった。今の境遇が不幸だとは思わないが、山の家の生活ほどの楽しさがあるかと言えば、答えに窮する。
維持班の園芸課に転属しようかな・・・
しかし、園芸課に入ってもライサンダーはいない。ダリルは頭を振って、弱気を振り払った。
集落の入り口に到着した。トラックが一台、クラクションを鳴らして彼を追い越したが、集落には停まらずに走り抜けて行った。
集落は静かだった。ダリルは家々の玄関口のステップに砂埃が積もっているのに気が付いた。誰も住んでいないのか?
エネルギーステーションには1台のトラックが居て、充電中だった。店の人は姿が見えない。セルフスタンドなので、機械任せなのだろう・・・一旦前を通り過ぎてから、彼は足を止めた。充電器は動いているのか?
振り返ると、機械は全てのライトが消えており、デジタル表示の料金表は真っ暗だ。トラックは何をしているのだ?
ダリルは銃のグリップに手を掛けながらトラックに近づいた。外から運転席の中は見えない。彼はドアをノックしてみた。応答がなかったので、ドアを開けてみると、あっさり開いた。中は空だった。空だが、生活の痕はある。数時間前迄誰かが乗っていたのだ。
ダリルは道路を見て、スタンドの隣の家を見た。その家がどうやら食堂らしく、中で灯りが点っていた。窓越しに人が座っているのが見えた。入り口の上に看板が掲げられており、「ダニーのダイニング」と書かれていた。
集落の中で、唯一人の気配がある建物だ。
トラックの運転手は食堂にいるのだろうか? しかし、死んだ機械に充電ケーブルを繋いで何をしてるのだ?
ダリルは上着で銃を隠し、「ダニーのダイニング」の入り口に近づいた。木製のスイングドアを開いて中に入ると、10席ばかりのカウンターとテーブルが3セットの細長い店舗だった。レトロな内装で、黒光するカウンターの向こうにグラスや酒のボトルの棚があり、ちょび髭の丸顔の中年男が1人、皿を拭いていた。奥のカウンター席に男が1人、珈琲カップを前に置いて端末で新聞を読んでいた。
女性は奥の厨房か?
ちょび髭がダリルの入店に気が付いて顔を向けた。
「いらっしゃい、食事ですか?」
「珈琲を一つ・・・」
ダリルは入り口に近いカウンター席に座った。