ダリル・セイヤーズ・ドーマーはシャワーを浴びてから私服にしようかスーツにしようかと迷った。中央研究所に行くことはドーマーにとっては仕事を意味している。彼はスーツを手に取ったが、結局私服にした。ポールは何も言わない。夜分の呼び出しの意味がわかっているからだ。
「この前は何時だった?」
「一月前・・・最近回数が減ってきていたから、そろそろ用済みだと思っていたんだけどなぁ。」
先に寝ていいよ、とポールにキスをしてダリルは出かけた。
視察団は観光から戻って来ており、食堂で夕食を取った後、自由時間を楽しんでいる。執政官が集まる娯楽施設からいつもより賑やかな音楽や声が聞こえてきた。ドーマーも遊ぶが、コロニー人が大勢いる時は寄りつかない。ダリルは酔っ払ったコロニー人に出遭わないよう用心しながら中央研究所に入った。
ロビーで呼び出しを受けたことを告げる前に、行くべき部屋番を教えられた。予想的中だ。彼は溜息をついて、言われた部屋へ入った。
部屋には誰もいなくて、検査着だけが置かれていた。採血はなしか? とちょっと肩透かしを食った気分で着替えた。ドアがノックもなしに開いた。いつもと違う状況にダリルが警戒して振り返ると、思いがけない人物が入って来ていた。
「こんな所で何をされているのです?」
思わず彼は尋ねた。目の前に検査着を着たアリス・ローズマリー・セイヤーズが居たからだ。彼女は例の酷薄そうな笑みを浮かべて近づいて来た。ダリルは逃げ出したい気分に襲われたが、背後はベッドだった。仕方なく突っ立って、彼女に抱きしめられた。
「好い体をしているわ。」
彼女の手が彼の筋肉の感触を楽しんでいた。ダリルはくすぐったいのと不審とで不快だった。
「どう言うおつもりですか?」
「黙って!」
富豪が命令した。
「今宵一晩、貴方を買いました。」
「はぁ?」
ダリルは自分でも間抜けた声だと思いながら、口に出した。
「コロニー人が地球人を抱くのは違反ですよ。」
「寄付金の額を聞いて、『地球人類復活委員会』が法を曲げました。」
「法を曲げたって・・・」
「私は貴方の遺伝子が欲しいのです。」
「それなら、採取したものを持ち帰られたら良いではありませんか。」
「それは出来ません。月での通関検査で没収されます。」
「だったら、やはり法律違反でしょう?」
「ここで私の体の中に入れてしまえば、誰も持ち出しを阻止することは出来ません。」
「しかし・・・」
「コロニーに居る時から貴方の存在は知っていました。聞けば、私の息子達より優秀な人だと言う・・・ですから、私は今日に合わせて体調を整えてきました。」
ダリルは目眩を覚えた。この女は何歳だ? まだ妊娠出来るのか? 生みの母そっくりの女を自分は抱けるのか?
「私は、貴女のクローンが産んだ子供です。貴女の息子と同じですよ。貴女がしようとしていることは倫理的に許されることではないでしょう?」
「双子の姉妹の子供、甥っ子と同じでしょうね。」
アリス・ローズマリーは動じなかった。ダリルの肩を押さえて、「座りなさい」と命令した。ダリルは抵抗した。
「私が本気で拒否したら、貴女は死にますよ。」
「貴方には出来ませんよ、そんなこと。言いましたでしょ? 委員会は貴方を私に売ったのです。誰も助けに来ませんよ。」
ダリルは渋々ベッドに腰を下ろした。アリス・ローズマリーが隣に座り、彼の唇にキスをした。ダリルが気のない態度で応じると、彼女が囁いた。
「本気にさせてあげるから。後悔はさせません。貴方にもドームにも良い結果になります。」
「この前は何時だった?」
「一月前・・・最近回数が減ってきていたから、そろそろ用済みだと思っていたんだけどなぁ。」
先に寝ていいよ、とポールにキスをしてダリルは出かけた。
視察団は観光から戻って来ており、食堂で夕食を取った後、自由時間を楽しんでいる。執政官が集まる娯楽施設からいつもより賑やかな音楽や声が聞こえてきた。ドーマーも遊ぶが、コロニー人が大勢いる時は寄りつかない。ダリルは酔っ払ったコロニー人に出遭わないよう用心しながら中央研究所に入った。
ロビーで呼び出しを受けたことを告げる前に、行くべき部屋番を教えられた。予想的中だ。彼は溜息をついて、言われた部屋へ入った。
部屋には誰もいなくて、検査着だけが置かれていた。採血はなしか? とちょっと肩透かしを食った気分で着替えた。ドアがノックもなしに開いた。いつもと違う状況にダリルが警戒して振り返ると、思いがけない人物が入って来ていた。
「こんな所で何をされているのです?」
思わず彼は尋ねた。目の前に検査着を着たアリス・ローズマリー・セイヤーズが居たからだ。彼女は例の酷薄そうな笑みを浮かべて近づいて来た。ダリルは逃げ出したい気分に襲われたが、背後はベッドだった。仕方なく突っ立って、彼女に抱きしめられた。
「好い体をしているわ。」
彼女の手が彼の筋肉の感触を楽しんでいた。ダリルはくすぐったいのと不審とで不快だった。
「どう言うおつもりですか?」
「黙って!」
富豪が命令した。
「今宵一晩、貴方を買いました。」
「はぁ?」
ダリルは自分でも間抜けた声だと思いながら、口に出した。
「コロニー人が地球人を抱くのは違反ですよ。」
「寄付金の額を聞いて、『地球人類復活委員会』が法を曲げました。」
「法を曲げたって・・・」
「私は貴方の遺伝子が欲しいのです。」
「それなら、採取したものを持ち帰られたら良いではありませんか。」
「それは出来ません。月での通関検査で没収されます。」
「だったら、やはり法律違反でしょう?」
「ここで私の体の中に入れてしまえば、誰も持ち出しを阻止することは出来ません。」
「しかし・・・」
「コロニーに居る時から貴方の存在は知っていました。聞けば、私の息子達より優秀な人だと言う・・・ですから、私は今日に合わせて体調を整えてきました。」
ダリルは目眩を覚えた。この女は何歳だ? まだ妊娠出来るのか? 生みの母そっくりの女を自分は抱けるのか?
「私は、貴女のクローンが産んだ子供です。貴女の息子と同じですよ。貴女がしようとしていることは倫理的に許されることではないでしょう?」
「双子の姉妹の子供、甥っ子と同じでしょうね。」
アリス・ローズマリーは動じなかった。ダリルの肩を押さえて、「座りなさい」と命令した。ダリルは抵抗した。
「私が本気で拒否したら、貴女は死にますよ。」
「貴方には出来ませんよ、そんなこと。言いましたでしょ? 委員会は貴方を私に売ったのです。誰も助けに来ませんよ。」
ダリルは渋々ベッドに腰を下ろした。アリス・ローズマリーが隣に座り、彼の唇にキスをした。ダリルが気のない態度で応じると、彼女が囁いた。
「本気にさせてあげるから。後悔はさせません。貴方にもドームにも良い結果になります。」