宇宙から客が来るからと言って、ドーマー達が特別何か準備をする訳ではない。いつもより掃除を丁寧にとか、花を飾って、とかそんなこともしない。
忙しいのは執政官達で、ケンウッド長官以下、客がドームの事業の進展を理解出来る様資料の整理や作成に忙殺されていた。JJはとりわけ忙しく、塩基配列が見えることの証明をパフォーマンスで披露しなければならず、サンプル作成に没頭していた。お陰でデートする時間が取れず、ポール・レイン・ドーマーはつまらなかった。ふてくされて市民から送られて来た婚姻許可申請に目を通さずに却下のスタンプを押そうとして、ダリル・セイヤーズ・ドーマーに怒鳴られた。
「他人の一生を台無しにするようなミスをするな! 君の個人的な鬱憤を仕事で晴らすんじゃないっ!」
流石にポールも我に返って反省した。その後は逆に仕事に没頭して雑事を忘れた。
視察団は20名だった。各コロニーを代表する大企業の経営者や著名な大学教授達だ。彼等は、手順通り月で地球滞在中の注意事項を与えられ、宇宙船内で消毒を受けた。そして来訪者が着用を義務づけられているスーツに着替え、静かに地球に降り立った。
特に歓迎式典はなかった。これは視察団側からの希望で、彼等の世話で地球人の手を煩わせたくないと言うのだった。初日はドーム内の見学で、特にドームの主要施設である出産管理区と地下のクローン育成施設に重点が置かれた。
夕方近くになって、仕事に没頭しているポールとダリルの端末にそれぞれ連絡が入った。ダリルへの連絡はラナ・ゴーン副長官からで、半時間後にゲストハウスのロビーに来るようにと言うものだった。視察団との面会はゲストハウスのホールだから、これは集合がかかったと考えて良いだろう。
ダリルがポールに断りを入れようと振り返ると、ポールは誰かと電話中だった。しかも、彼はごねていた。
「嫌です。俺は行きません。・・・いいえ、意味がないことはしませんから・・・。ずぇったいに、嫌です!!」
彼はダリルが見ていることに気が付いた。ちょっと顔をしかめて電話の相手に言った。
「セイヤーズはちゃんと行きます。それは安心して下さい。」
彼は、さようなら、と言って電話を切った。
ダリルが誰?と尋ねると、彼はぼそっと答えた。
「ケンウッド長官だ。俺にも面会に参加しろと言うので、断った。」
「ああ・・・」
ポールは噂の軍人と顔を合わせたくないのだ。ダリルははなっから1人で行くつもりだったので、「それじゃ行ってくる」と言って席を立った。
ポールは手を振ってくれたが見送りはなかった。
廊下に出ると、クロエル・ドーマーがオフィスから出てくるのと出遭った。君も面会に行くの?と尋ねると頷いた。
「レインが断るから、僕ちゃんにお鉢が回ってきたんすよ。」
クロエルは特に腹を立てているでもなく、諦めた様な表情だった。南米班と北米北部班のチーフは外廻りに出ている。遺伝子管理局の代表として面会に参加する地位にいる人間は彼だけのようだ。
「ほんとは、コロニー人に一番人気があるのは局長なんですけどねぇ・・・」
「局長は参加されないのか?」
「局長は視察団が来る度に腹痛やら頭痛やら痺れやらで病欠されるんですよ。」
「それって・・・仮病じゃないのか?」
「局長自身がそう言うのなら仮病でしょうけど、長官が視察団にそう言っているんだから、仮病じゃないでしょ。」
「長官が?」
クロエルがダリルにウィンクして見せた。
「長官を含めたドームの執政官達全員が局長を守ってるんですよ。ハイネ・ドーマーはここのドームで純粋培養された人ですからね、コロニーの俗な連中と交わらせたくないんですって。」
「確かに・・・局長がお金の話に加わるなんて、イメージが湧かないなぁ。」
忙しいのは執政官達で、ケンウッド長官以下、客がドームの事業の進展を理解出来る様資料の整理や作成に忙殺されていた。JJはとりわけ忙しく、塩基配列が見えることの証明をパフォーマンスで披露しなければならず、サンプル作成に没頭していた。お陰でデートする時間が取れず、ポール・レイン・ドーマーはつまらなかった。ふてくされて市民から送られて来た婚姻許可申請に目を通さずに却下のスタンプを押そうとして、ダリル・セイヤーズ・ドーマーに怒鳴られた。
「他人の一生を台無しにするようなミスをするな! 君の個人的な鬱憤を仕事で晴らすんじゃないっ!」
流石にポールも我に返って反省した。その後は逆に仕事に没頭して雑事を忘れた。
視察団は20名だった。各コロニーを代表する大企業の経営者や著名な大学教授達だ。彼等は、手順通り月で地球滞在中の注意事項を与えられ、宇宙船内で消毒を受けた。そして来訪者が着用を義務づけられているスーツに着替え、静かに地球に降り立った。
特に歓迎式典はなかった。これは視察団側からの希望で、彼等の世話で地球人の手を煩わせたくないと言うのだった。初日はドーム内の見学で、特にドームの主要施設である出産管理区と地下のクローン育成施設に重点が置かれた。
夕方近くになって、仕事に没頭しているポールとダリルの端末にそれぞれ連絡が入った。ダリルへの連絡はラナ・ゴーン副長官からで、半時間後にゲストハウスのロビーに来るようにと言うものだった。視察団との面会はゲストハウスのホールだから、これは集合がかかったと考えて良いだろう。
ダリルがポールに断りを入れようと振り返ると、ポールは誰かと電話中だった。しかも、彼はごねていた。
「嫌です。俺は行きません。・・・いいえ、意味がないことはしませんから・・・。ずぇったいに、嫌です!!」
彼はダリルが見ていることに気が付いた。ちょっと顔をしかめて電話の相手に言った。
「セイヤーズはちゃんと行きます。それは安心して下さい。」
彼は、さようなら、と言って電話を切った。
ダリルが誰?と尋ねると、彼はぼそっと答えた。
「ケンウッド長官だ。俺にも面会に参加しろと言うので、断った。」
「ああ・・・」
ポールは噂の軍人と顔を合わせたくないのだ。ダリルははなっから1人で行くつもりだったので、「それじゃ行ってくる」と言って席を立った。
ポールは手を振ってくれたが見送りはなかった。
廊下に出ると、クロエル・ドーマーがオフィスから出てくるのと出遭った。君も面会に行くの?と尋ねると頷いた。
「レインが断るから、僕ちゃんにお鉢が回ってきたんすよ。」
クロエルは特に腹を立てているでもなく、諦めた様な表情だった。南米班と北米北部班のチーフは外廻りに出ている。遺伝子管理局の代表として面会に参加する地位にいる人間は彼だけのようだ。
「ほんとは、コロニー人に一番人気があるのは局長なんですけどねぇ・・・」
「局長は参加されないのか?」
「局長は視察団が来る度に腹痛やら頭痛やら痺れやらで病欠されるんですよ。」
「それって・・・仮病じゃないのか?」
「局長自身がそう言うのなら仮病でしょうけど、長官が視察団にそう言っているんだから、仮病じゃないでしょ。」
「長官が?」
クロエルがダリルにウィンクして見せた。
「長官を含めたドームの執政官達全員が局長を守ってるんですよ。ハイネ・ドーマーはここのドームで純粋培養された人ですからね、コロニーの俗な連中と交わらせたくないんですって。」
「確かに・・・局長がお金の話に加わるなんて、イメージが湧かないなぁ。」