2017年1月15日日曜日

訪問者 3

 春分祭の前にポール・レイン・ドーマーは退院した。ダリルの脚も抜糸が済んで、軽いランニング程度なら許可が出た。格闘技などはまだお預けだ。

「銃創だから、あまり軽く考えない方が良い。来週、もう1度診察に来なさい。それから完治宣言を出すか治療続行か決める。」

 医療区からそう告げられて、ダリル自身はもう治った気分だった。杖なしで歩けるし、リハビリで水中歩行が出来る。

「ライサンダーは3,4日で骨折が治ったそうだが、君はそんな能力はないのだな。」
「うん。息子の復活力はどこから来ているのだろう?」

 ダリルとポールは顔を見合わせ、少し考え、同じ結論に至った。

「シェイが持っているんだ!」
「彼女はコロニー人だからな。卵子の核を取り除いたと言っても、100パーセントではないはずだ。精子と精子だけをくっつけても人間にはならない。シェイの卵子の一部が残っていたんだ。」

 そのシェイは、結局ドームからつかず離れずの場所に落ち着く予定だ。ドームのすぐ外にある空港の食堂で働く手筈をコロニー人達が整えてくれた。ドームの生活に今更馴染めないだろうし、だからと言って在野に放置する訳にもいかない。彼女を保護したパイロットのマイケル・ゴールドスミス・ドーマーが、彼女がコックだと言ったので、航空班が彼女を引き受けると申し出たのだ。航空班は配属が決まった時点で「通過」を行うので、普通の地球人と同じ生活を外の尞でしている。ドーム内に戻るのは休暇の時だけだ。尞の食堂の「おばさん」として、シェイを迎えてくれるのだ。 シェイはジェリーと月一の割合で会うことでこの新しい生活を承諾した。
 脳移植ではなく脳内麻薬製造の為に少年達を攫っていたことが判明したFOKは、警察から撲滅対象の犯罪組織と認定された。ニコライ・グリソム、ジョンとガブリエルのモア兄弟は近々裁判に掛けられる。他の仲間の氏名を明かすよう、警察と連邦捜査局が追求したのだが、彼等の口は固く、司法取引にも応じない。ロイ・ヒギンズとそのチームは残りのメンバーの捜査を続けるつもりで、ジョン・ケリー・ドーマーは当分ヒギンズと組む。
 トーラス野生動物保護団体は、本来の仕事を続けているが、理事達の中で病気や事故で立て続けに3名が急死した。だが、理事長モスコヴィッツやビューフォードが健在なので、ポール・レイン・ドーマーは不愉快に思った。兄貴は何をぐずぐずしているのだ?と彼は心の中で呟いた。
 フラネリー政権とドームの間で交わされた暗黙の了解を知らないダリルは、理事達の不幸をテレビのニュースで見て、

「そんな歳でもないのに、急に死ぬものかなぁ?」

と呟いた。心臓や血圧など、健康に関する問題はしっかり管理出来る地位の人々なので、ドーマーから見ると「突然の病死」は不可解に思えたのだ。
 当然ながら、ポールはしらばっくれた。

「所謂、運命ってヤツだろう。」
「君がそんな単語を使うなんて、意外だなぁ。」
「そうか? だが、こう言う運命は意外でも何でもないだろう?」

 ポールはいきなりダリルをソファの上に押し倒した。ダリルは素直に彼を受け入れた。キスで互いに興奮を高め合って、それから寝室へ移動した。