2018年6月3日日曜日

待機者 1 - 3

 ポール・レイン・ドーマーが遺伝子管理局本部のロビー迄降りた時、ローガン・ハイネ局長が玄関から入ってきた。昼寝をして幾分気分が良くなったので普段通りの午後の業務の為に出て来たのだ。レインは「お先に上がります」と挨拶してすれ違おうとした。すると局長に呼び止められた。

「チーフ・レイン、次の出動は明日だったか?」

 レインは足を止めて局長を振り返った。

「その筈でしたが、医療区の嫌がらせで、明々後日になりました。」

 局長も彼を振り返った。

「嫌がらせ?」
「俺の年齢では抗原注射の間隔を10日に1回にしろと言われました。」

 誰の目から見ても40代そこそこに見える97歳の局長が、レインの全身を下から上迄ジロリと眺めた。

「幾つになった、レイン?」
「まだ38歳です。」

 味方してくれるかと思いきや、局長は素っ気なく言った。

「飽和する恐れがある。医療区に従いなさい。」

 チェッと内心舌打ちしながらレインは「はい」と答えた。そして呼び止められた理由はそれだけだろうかと疑う間も無く、局長は言った。

「5日後に視察団が来る。君達が帰投する日の翌々日だ。接触しないよう気をつけなさい。また例の軍の広報の男が参加するそうだ。」
「例の?」

 レインは前回3年前の視察団がドームに来た時、接触を避けた。軍の広報の男の悪い評判は聞いていたが、顔を見ていない。見たいと思わない。

「わかりました。気をつけます。」

 局長は頷くと、受付の職員にも顔を向けた。君も聞いたな? と無言の問いかけをしたのだ。受付の職員も「気をつけます」と答えた。局長は頷き、エレベーターに向かった。
 レインは本部から外に出た。ジムに向かって歩きながら思った。医療区は局長の捕獲を企んでいる筈だ。今回はどこで捕まえるのだろう?
 ドーマー達は局長の入院はドームが視察団の物好きから彼を守る為だと信じている。しかしレインは接触テレパスと言う能力を母親から遺伝で受け継いでいる。だから局長入院の本当の理由を古参の執政官から情報を得て知っていた。

 ローガン・ハイネと言う人は一体いくつ武勇伝を持っているのだ?