2018年6月22日金曜日

待機者 3 - 9

 料理の量が少なかった分、局長はレインより先に食べ終わってしまったが、部下が食事を終える迄付き合ってくれた。ファンクラブが局長を苦手として近づかないので、レインには有り難かった。局長もそのことをわかっていて、座ってくれていたのだ。

 きっと俺が連中を追い払わないことを歯痒く思っているのだろうな・・・

 レイン自身、ファンクラブを追い払いたいのだ。しかし、ドーマーは執政官に逆らうなと幼児期から叩き込まれて育ってきた。逆らうと「お勤め」の時に仕返しされるのが怖い。執政官は研究の名の下にドーマーを好きなように扱えるのだから。レインは麻酔をかけられて意識を失っている間に「お勤め」の処置を施されてしまうのが嫌だった。実際は何をされたのかわからない、と言う事態になって欲しくない。だから彼は執政官に絶対に逆らわない。彼だけでなく、ほぼ全員のドーマーが逆らわない。
 ローガン・ハイネは現在こそ「お勤めのない清いドーマー」で通っているが、若い頃は仲間と同じだった筈だ。いや、美し過ぎる為に多くの執政官の関心を集めたに違いない。ハイネも執政官に逆らわない。だが、絶対服従するかと言えば、そうでもない。年の功なのか、性格なのか、彼は上手に執政官の指示をかい潜り、反抗と悟られぬ巧妙な反抗をやってのける。レインはその柔軟性が羨ましい。
 食べ終わると、彼等は揃って席を立った。食器を返却して外に出ると、ハイネの端末に電話の着信があった。局長は歩きながら画面を見て、掛けてきた相手が誰か知ると立ち止まった。

「こんばんは、長官。」

 長官、と聞いてレインも立ち止まった。黙ってこの場を去るのは失礼だと思ったからだ。
 ケンウッド長官からの連絡は短かった。局長は「わかりました」と一言返して、通話を終えた。そしてレインに言った。

「私は図書館に行く。君はジムだな?」
「はい。今夜はここでお別れですね。夕食、美味しかったです。ご馳走様でした。」

 ハイネは部下の分の支払いをしてくれたのだ。