2018年6月2日土曜日

Break 22

 地球にいる女性は全てクローンである。彼女達のオリジナルは宇宙に住んでいるコロニー人だ。「大異変」の後、地球上では女性が誕生しなくなった。クローンの女性達が産む子供は全て男の子で、彼等の精子のX染色体はどう言う訳かクローン女性の卵子に受精することが出来ない。クローン女性の卵子が拒むのだ。地球人の精子だけではない。コロニー人の男性から提供された精子も地球のクローン女性の卵子との間では男の子しか作れない。
 クローン女性のオリジナルは、地球人類復活委員会によって宇宙連邦の各コロニーから集められる。宇宙連邦時代に入ってから、多くの女性が妊娠期間の長さを好まなくなった。彼女達は受精卵を「卵子銀行」に預ける。そこで受精卵は妊娠初期の難しい期間を保育設備装置の中で育ち、安定すると母親と共に入院施設に移される。母親は胎児を見ながら母性を育てて行くのだ。クローンはこの保育設備装置に入っている受精卵から作られる。両親から承諾を得るのは当然だが、この時、クローン製造承諾書に署名すると保育設備装置使用料が無料になると言う特典が与えられるのだ。だから、ボランティアと言う名で受精卵のクローンを承諾する親は少なくない。彼等は地球で地球人として生きる娘のクローンに関して全ての肉親としての権利を放棄する承諾もする。
 実を言うと、極稀ではあるが、地球人の女性の中には、クローンでない女性もいる。コロニー人の中には、自分の卵子を売却する人もいるのだ。地球人類復活委員会はその卵子にドーマーの精子を受精させ、純粋な女性を作る。ドーマーは研究用に育てられている地球人のことで、ドームと呼ばれる地球人の出産施設の中で一生を送る人間だ。彼等の99パーセントは男性で、胎児の段階で選別される。健康で頭脳も身体も優秀な親の子供が選ばれるのだ。

 地球人類復活委員会の収入の大半を占める大企業からの寄付金は宇宙連邦政府の年間予算に匹敵する。そこまでお金を掛けるのは、地球の資源が魅力的だからだ。石油や石炭と言った化石燃料の時代がとっくの昔に終わっていたが、地球にはまだ多種にわたる資源が眠っている。それに食糧生産量はコロニーよりも遥かに多い。しかも、美味しい。
 だから、大企業はお金を掛けて地球を貿易可能な星に戻そうとしているのだ。