2018年6月18日月曜日

待機者 3 - 5

 レインが支局の局員待機室に戻ると室内が険悪な雰囲気に満たされていた。元凶はわかっていた。しかし1人だけドームに帰らせる訳にも行かないし、衛星データ分析官は必要だ。レインは最初にキエフの机に行き、彼の準備が整ったことを確認した。次に他の部下達の机を順番に見て、彼等が本部から受信した衛星データを解析して気になる部分をキエフに詳細に分析してもらう手順を見た。キエフも仕事に関しては好き嫌いを言わない。どんなに虫が好かない相手でも、仕事を回してくれば素直に受け取って分析し、結果を報告する。専門分野に限れば、信頼出来る仲間なのだ。
 ここで「仲良くしろ」と言うのも可笑しいので、レインは黙って成り行きを見ることにした。キエフだってもっとアメリカに慣れてくればみんなと打ち解けるだろうと楽観することにしたのだった。
 最後に副官のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーの席に行き、ボーデンホテルの支配人にもらった外国人の宿泊者記録を見せた。ワグナーはリストを見て、思ったままを述べた。

「中近東の客が多いですね。天然資源を開発するには、ここは2世紀前に掘り尽くされていると思いますが・・・」
「目当ては天然資源じゃないだろう。」

 ワグナーがリストから目を上げてレインを見た。

「メーカーの客ですね?」
「うん。それもテメェんとこのメーカーでは満足出来ない金持ち連中だ、きっと。」
「しかし、金持ちなら妻帯許可が出るでしょう?」
「妻が産む子供が必ずしも後継者にふさわしい器量を持っているとは限らん。」
「しかし・・・」
「昔の彼等の先祖は裕福なほど妻を多く持てたんだ。妻が多ければ優秀な息子も多かった。しかし、今の中近東は西ユーラシア・ドームの管轄だろう? 」
「南アジア・ドームじゃなかったですか? そこのところは僕も不確かですが・・・」
「どちらにしろ、遺伝子管理局は男1人に妻1人しか認めない筈だ。どんなに金を積まれても、貴重な女性を1人の男に独占させることは許可出来ない。だから、金持ちは息子を多く持ちたければ養子かクローンの息子を作るしか方法がない。」
「自身の血を分けた子供、と希望すればクローンですね。」
「それも普通の子供と同じ健康で長生き出来るクローンだ。」
「例の・・・完璧なクローンを作る謎のメーカーの客のリストですね、これは!」
「連中は当然1回きりと言うことはない。初めての滞在が各自一週間から10日、それから10ヶ月後に再訪だ。子供を受け取って支払いをするか・・・いや、きっと半額は前払いだろうな。」

 ワグナーがペン先を舐めた。

「どうやって繋ぎを付けるのでしょうね?」
「俺もそれを知りたい。」