2018年6月29日金曜日

待機者 5 - 2

 ケンウッドはハイネ局長にも持ち場に戻ってよろしいと言い、遺伝子管理局長は持ち場ではなく昼食を取りに去った。長い回廊ではなく近道で出産管理区の裏通路を抜けて行く出口へ去って行った。
 ラナ・ゴーン副長官とケンウッドは窓から滑走路上のシャトルを眺めた。

「地上機はもう運行をキャンセルしているのだろうね?」
「その筈ですわ。気象の変化に関して言えば、地球人の方が用心深いですもの。直接生活と関わっていますからね。」
「アフリカからの航空機は明日の嵐が過ぎた後に来るのだろう・・・」

 ラナ・ゴーンが彼を振り返った。ちょっと微笑んでいた。

「アイダ・サヤカがアフリカから戻って来ると思ってらっしゃるの?」
「違うのかね?」

 ケンウッドが面食らうと、ゴーンは笑った。

「大西洋横断は距離的に早いですけど、地上航路は色々ありますのよ。」
「えっ? それは・・・」
「カイロからヨーロッパを経由して北極圏を飛んでカナダから南下して来る方法もあります。」

 仕事で出張したことは数回あるが、地球上の移動となるとケンウッドは全く素人だ。航空機と車以外の交通手段を使ったこともない。一方ラナ・ゴーンは執行部役員時代に地球上のドームや分室を隈無く巡って来たので、船舶や鉄道にも詳しかった。地球生活が長いアイダ・サヤカも若い頃は親友で同僚だったキーラ・セドウィックと何度か旅行していたと言うから、今回もケンウッドが知らない行程で戻って来る可能性があった。

「すると鉄道で帰って来ることも考えられるのかね?」
「暴風雨の時は鉄道も止まりますわ。」

 ゴーンは肩をすくめた。

「どの方法で帰って来るにしても、どこかで嵐をやり過ごさなければならないでしょう。」
 
 窓の外のシャトルが動き始めた。外の人間にはドームの内部が見えない。しかし、ケンウッドはいつもそれを忘れて去って行く人々に手を振ってしまう。それをラナ・ゴーンは微笑ましく眺めた。

 この人の純粋なところにドーマー達は惹かれるのね・・・