その街は、タンブルウィードと言う立派な名前があるのだが、ドームでは単に「中西部支局がある街」としか呼ばれなかった。そしてその地方でも、「街」と言えばタンブルウィードを指すので、住民すら自分達が住んでいる場所の名前を滅多に呼ばなかった。
つまり、南北アメリカ大陸遺伝子管理局中西部支局の正式名称は、タンブルウィード支局なのだ。
支局長のレイ・ハリスは職員や巡回して来る遺伝子管理局員にタンブルウィード支局と呼ばせようと努力したが虚しく失敗した。もう200年間中西部支局で通っているのだ。今更変えようなんて誰も思わなかった。ハリスが自身の名前をレイモンドからレイに変えたことだけが成功したようだ。人の名前は短い方が覚えやすい・・・。
遺伝子管理局北米南部班のチーフ、ポール・レイン・ドーマーと第1チームと第3チームがやって来た。住民との面談はクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーと先発隊が済ませているので、この団体はメーカー摘発が目的の来訪だ。ハリスはレインが嫌いだ。ぞっとする程の美貌で周囲の注目を一身に集めるが、当人は全く意に介さない。愛想が悪くて、支局長室に挨拶に来ても、「こんにちは、よろしく」とだけ言うとすぐ退出する。何をやっているのか説明もなく、局員待機室を作戦本部に改造してしまい、コンピュータを設置して局員以外立ち入り禁止にしてしまった。
先発隊の局員は抗原注射の効力が切れる者だけ先に帰投させ、残りは忙しなく部屋や支局を出入りしている。ワグナーが静音ヘリコプターを飛ばすと聞いて、ハリスは燃料代の支払いをどこへ提出すれば良いかと尋ねた。ワグナーはレインより親切だったので、本部への手続きの手順を教えてくれた。
「支局との窓口は局長第2秘書のキンスキー・ドーマーですから、間違えないで下さいね。第1秘書宛にすると、ネピア・ドーマーに後回しにされちゃいます。あの人、細かいことに煩いんですよ。」
支局の必要経費請求はハリスの秘書のナタリー・リーランドと言う年配の女性が行なっていた。彼女に任せておけば質問する必要などなかったのだが、ハリスは少しでもドームとの繋がりを持ちたくて質問したのだ。ワグナーもその辺の彼の心境は理解していた。妻のキャリーは精神科のお医者さんだ。彼も複雑な立場にいるハリスに注意を払っていた。
飲酒と賭博の借金で左遷されたコロニー人の元科学者だ。職員にそっと彼の日頃の生活を尋ねてもいた。
ハリスは基本的に自宅として購入した古い一軒家と職場を行き来するだけの生活だ。たまに街中に買い物に出るが遊びに出かけることはない。彼は地球の大気が怖いのだ。宇宙にない細菌やウィルスとかの微生物も、燦燦と降り注ぐ太陽の光も、危険値の低い放射線も、土埃も、レイ・ハリスにとって脅威に思えるのだ。風が吹くと転がってくるタンブルウィードなど言語道断だ。だから、ハリスは外出しても寄り道をしない。大好きな酒場にも立ち寄らない。カウボーイなんか不潔の塊だ、と思っている。西部劇に登場するカウボーイなど大昔に絶滅しているのだが・・・。
レイ・ハリスが真面目に暮らして真面目に働いているので、レインは彼を無視していた。少しでも不審な動きをすれば監視対象にしただろうが、コロニー人は「良い子」にしていたので、彼は安心してしまった。
つまり、南北アメリカ大陸遺伝子管理局中西部支局の正式名称は、タンブルウィード支局なのだ。
支局長のレイ・ハリスは職員や巡回して来る遺伝子管理局員にタンブルウィード支局と呼ばせようと努力したが虚しく失敗した。もう200年間中西部支局で通っているのだ。今更変えようなんて誰も思わなかった。ハリスが自身の名前をレイモンドからレイに変えたことだけが成功したようだ。人の名前は短い方が覚えやすい・・・。
遺伝子管理局北米南部班のチーフ、ポール・レイン・ドーマーと第1チームと第3チームがやって来た。住民との面談はクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーと先発隊が済ませているので、この団体はメーカー摘発が目的の来訪だ。ハリスはレインが嫌いだ。ぞっとする程の美貌で周囲の注目を一身に集めるが、当人は全く意に介さない。愛想が悪くて、支局長室に挨拶に来ても、「こんにちは、よろしく」とだけ言うとすぐ退出する。何をやっているのか説明もなく、局員待機室を作戦本部に改造してしまい、コンピュータを設置して局員以外立ち入り禁止にしてしまった。
先発隊の局員は抗原注射の効力が切れる者だけ先に帰投させ、残りは忙しなく部屋や支局を出入りしている。ワグナーが静音ヘリコプターを飛ばすと聞いて、ハリスは燃料代の支払いをどこへ提出すれば良いかと尋ねた。ワグナーはレインより親切だったので、本部への手続きの手順を教えてくれた。
「支局との窓口は局長第2秘書のキンスキー・ドーマーですから、間違えないで下さいね。第1秘書宛にすると、ネピア・ドーマーに後回しにされちゃいます。あの人、細かいことに煩いんですよ。」
支局の必要経費請求はハリスの秘書のナタリー・リーランドと言う年配の女性が行なっていた。彼女に任せておけば質問する必要などなかったのだが、ハリスは少しでもドームとの繋がりを持ちたくて質問したのだ。ワグナーもその辺の彼の心境は理解していた。妻のキャリーは精神科のお医者さんだ。彼も複雑な立場にいるハリスに注意を払っていた。
飲酒と賭博の借金で左遷されたコロニー人の元科学者だ。職員にそっと彼の日頃の生活を尋ねてもいた。
ハリスは基本的に自宅として購入した古い一軒家と職場を行き来するだけの生活だ。たまに街中に買い物に出るが遊びに出かけることはない。彼は地球の大気が怖いのだ。宇宙にない細菌やウィルスとかの微生物も、燦燦と降り注ぐ太陽の光も、危険値の低い放射線も、土埃も、レイ・ハリスにとって脅威に思えるのだ。風が吹くと転がってくるタンブルウィードなど言語道断だ。だから、ハリスは外出しても寄り道をしない。大好きな酒場にも立ち寄らない。カウボーイなんか不潔の塊だ、と思っている。西部劇に登場するカウボーイなど大昔に絶滅しているのだが・・・。
レイ・ハリスが真面目に暮らして真面目に働いているので、レインは彼を無視していた。少しでも不審な動きをすれば監視対象にしただろうが、コロニー人は「良い子」にしていたので、彼は安心してしまった。