2018年6月10日日曜日

待機者 2 - 3

 昼前の定例打ち合わせ会は、ラナ・ゴーン副長官と遺伝子管理局長第2秘書アルジャーノン・キンスキー・ドーマーが出席した。第1秘書のネピア・ドーマーは局長の予定より早い「入院」のお陰で局本部内と医療区を行ったり来たりで忙しい。
 ゴーンは視察団のおもてなしに頭を悩ませていた。前回、前の副長官ガブリエル・ブラコフがアンデス地方の旅行を企画して大成功を収めたので、今回の客人達も期待が大きい。ユカタン半島の遺跡がたくさん要求に挙げられているが、彼等に許される時間は多くても36時間だ。そこから移動時間を引くと、滞在期間はもっと短くなる。どこに案内してどれを切り捨てるか、彼女は悩んでいた。
 彼女と局員の個人的関係を知ってるケンウッドとキンスキーは、養子のクロエル・ドーマーに相談すれば良いのにと思ったが、言葉に出さなかった。

「チチェン・イッツァとグランセノーテ、そしてムヘレス島のホテルで1泊・・・」

 ゴーンは地球人の人気スポットを選んだ。あまり冒険はしたくない様で、安全対策が取れている観光地だ。

「あまり贅沢にならない様に・・・」

とケンウッドが忠告した。

「研究費が余っていると出資者様達に誤解されると、寄付金が減るからね。」
「承知しています、長官。」

 ゴーンが苦笑した。

「私が思い浮かぶのはこの程度なのです。遺伝子管理局の中米班はもっと素敵な場所を知っている筈ですね。でも出資者達も地球に関する知識では私と変わらないのですよ。マニアックな場所は公的な旅行では期待しないで頂きたいですわ。」
「成る程、開き直られたのですな?」

とキンスキーが面白そうに呟いた。

「前回の視察団は、マニアックにウユニ塩湖を初めから指定して来ました。ブラコフ前副長官がかなり珍しい場所の企画を立てたので、今回の人々はそれなら自分達も、と付け焼き刃で勉強して遺跡を並べ立てただけだと、私は思いますよ。」
「すると、無理してアクセスが困難な場所に行く必要はないと?」

 ケンウッドが尋ねると、キンスキーは首を振った。

「ジャングルがどんな場所か知らない人々の要求です。恐らくアマゾンとナイルの違いも分からない人達だと思います。ゴーン副長官は、貴女が行きたいと思われる場所を選ばれれば良いのです。」

 ゴーンが微笑んだ。

「キンスキー・ドーマー、貴方にキスしてもよろしいかしら?」