2018年6月24日日曜日

待機者 4 - 2

 ビル・フォーリー・ドーマーはポール・レイン・ドーマーが口にしたケンウッド長官への批判を無視した。彼は長官が視察団とドーマーとの軋轢に心を砕いていることを知っていた。クロワゼット大尉の行動は長官も気に入らない筈だ。だが、残念なことに、法律に違反していると言えないのだ。大尉はつきまとうだけで、ドーマーに触った訳ではない。怪我をさせたこともないし、仕事の邪魔をしたのでもない。仕事の後の自由時間につきまとう、それだけだ。だから内務捜査班も監視しているだけだった。そして・・・
 遂にクロワゼット大尉はやってしまったのだ。

「君はクロワゼットと試合をしたな?」
「俺が申し込んだのです。勝負して、俺が勝てば大尉が部下達に謝罪すると。」
「そして君が負ければ・・・」
「彼が俺にキスをする・・・」

 レインは思い出して吐き気を覚えた。なんとか我慢したが、フォーリーと目を合わせたくなかった。フォーリーが情け容赦なく質問した。

「君には特殊能力がある。あの男の感情を感じただろう?」
「思い出したくありません。」

 フォーリーがまた端末を見た。

「あの男は同性愛者ではない。寧ろ同性愛者を見下す言動を取ったと言う証言をコロニー人から得ている。彼が君にキスをしたのは、君を侮辱するのが目的だ。」

 そんなことはわかっている。

「だから何なんですか?」

 レインは立ち上がった。

「あいつの誘いに乗ってしまった俺の失態ですよ! たかがキスで軍人を怒らせてドームの運営に支障をきたすことになれば、俺は・・・」

 怒りでそれ以上は言えなかった。彼は感情をぶつける対象がなく、思わず宙に向かって唸った。
 フォーリーは動じなかった。レインが感情の波を鎮めるのを待って、尋ねた。

「君はアンリ・クロワゼット大尉を訴えないのだな?」
「訴えません。」

 フォーリーが初めて溜め息を付いた。

「あの男はまた来るぞ。」
「次は負けません。」
「レイン・・・」

 レインはフォーリーを振り返った。

「俺が負けたのは、あいつがコロニー人だとナメてかかったせいです。次は上手くやれます。あいつをぶちのめして、床に這わせて、謝罪させます。」

 それは局長の役目だ、と言おうとしてフォーリーは止めた。局長の最近の元気のなさは彼の耳にも入っていた。局長が負けるとは思わないが、やはり高齢が気になった。
 彼は端末にレインからの聞き取り調査の結果を記録して立ち上がった。

「では、今回はコロニー人に違反はなかったと結論着けるが、それで良いか?」

 レインはボソッと答えた。

「それで結構です。」