2018年6月17日日曜日

待機者 3 - 4

 ポール・レイン・ドーマーが支局に顔を出した時、ハリス支局長はそろそろ店仕舞いして帰宅する準備をしていた。職員達も業務の締めの最中で、秘書のナタリー・リーランドは食器洗浄機にその日最後に使用した食器を入れて電源を入れたところだった。彼女はキッチンに顔を出したレインに微笑みかけた。

「レモンジュースとオレンジジュースが冷えていますけど?」
「オレンジをお願いします。」

 愛想が悪くて悪名高いレインだが、実は女性には真逆の反応を見せる。彼は女性に親切で優しいのだ。リーランドを相手に数分ばかり世間話をした。彼女が退職予定を告げると悲しげな表情を見せた。

「ここへ来る一番の楽しみは、貴女とのお喋りだったのですがね。」

 それはお世辞でなく、彼の本心だった。こんな何もない田舎で唯一の楽しみが、小母さんとの心和む会話だった。外の女性には女性執政官にはない安らぎを感じた。執政官達は数年で宇宙に去ってしまうし、ドーマーを研究対象として見る。実際その為に育てられているのだからドーマーも気にしないが、どこか見下されている感が拭えない。年配の執政官からは完全に子供扱いされているし・・・。
 外の地球人にとって遺伝子管理局は畏怖の存在であり、尊敬されるし、また頼もしく感じてもらえる。一人前の人間として見てくれるのだ。
 リーランドが笑った。

「次の人もお喋りは大好きな筈ですよ。」
「そうですか?」
「女性はお喋りでストレスを発散させるのが好きなの。」
「まぁ・・・そうでしょうね・・・」

 女性執政官達もお喋りが好きだ。部屋妹のキャリーなどは食事中ずっと喋り続ける。

「ブリトニー・ピアーズって言う子なの。」

とリーランドが言った。

「私なんかよりずっと若いから、男の人ばかりの職場でちょっと不安だと思うのよ。だから守ってあげてね。」
「ええ、わかってます。仕事仲間は大切ですからね。部下にも手を出すなと言っておきますよ。」
「でも、恋愛に発展したら応援してあげても良いのよ。」

 リーランドがウィンクした。

「貴方方は一番信頼出来ますもの。」

 ドーム外部の人間との恋愛はご法度なんだよ、とレインは心の中で呟いた。もし許可なんかしたら、仲間が外に出されてしまう。レインは、それは嫌だった。