2018年6月24日日曜日

待機者 4 - 1

 ポール・レイン・ドーマーの独身者用アパートに客が来ることは滅多にない。ごく稀に部屋兄弟が訪ねて来るだけだ。だがその日の訪問者は異例で、好ましくない事態にしか現れない人物だった。
 レインは部屋に水しかないことを詫びた。だが独身者の部屋とは大概がそんなものだ。欲しいものがあれば食堂に行けば何でも手に入るし、コンビニも近い。

「こちらこそ、早朝に押しかけて申し訳ない。」

とビル・フォーリー・ドーマーが言った。早朝だし、彼も独身者用の部屋に住んでいるのだが、きちんとスーツを着用していた。仕事で来ているのだ。そしてレインは彼が来た理由を承知していた。

「眠れなかったので、時間なんて気にしていません。」

 レインは吐き捨てるように呟いた。効力切れの時はしっかり睡眠を取れとか、体を十分休ませろ、なんて常識的な忠告をフォーリーは言わなかった。内務捜査班は外に出ないし、彼は抗原注射の経験がない。しかし怒れるドーマーの相手は何度も経験して来た。

「経緯の確認をしたいのだが?」
「目撃者が大勢いたでしょう?」

とレインは仏頂面で言った。

「俺が自分で招いたことです。俺の失態だ。貴方のお手を煩わせることではありません。」

 彼の1人にしておいてくれ信号をフォーリーは無視した。端末のメモを出して確認した。

「アンリ・クロワゼット大尉は昨日午後9時過ぎにジムに現れ、若いドーマー達の周囲をうろつき始めた。これは20人近くから証言を取った。」
「徘徊は罪ではありません。」
「彼はパトリック・タンにつきまとった。」
「タンは全く大尉を相手にせず、大尉も半時間も経たない内に飽きました。」
「タンもそう言っていた。」

 レインはちょっと驚いた。

「タンから証言を取られたのですか? ここへ来られる前に?」

 まだ午前6時になっていない。レインは部下を休ませたい。例え上司と雖も可愛い部下の休息を妨害して欲しくなかった。フォーリーはレインが何を思おうと彼自身の任務を遂行する。そう先輩のジャン=カルロス・ロッシーニから仕込まれた。そしてロッシーニの師匠は・・・。
 
「タン・ドーマーは彼の方から私に連絡してきた。クロワゼットが君にした仕打ちに責任を感じたのだ。」
「彼の責任ではありません。」
「私もそう言ったぞ。」

 フォーリーは滅多に笑わないし、冗談も言わない。彼は次の証人に触れた。

「クロワゼットは次にカルロス・ドミンゴ・ドーマーを追いかけた。」
「カルロスは神経質な男なのです。」
「クロワゼットの嫌がらせに我慢出来ずに君に訴えたのだな?」
「耳元で卑猥な言葉を呟かれ、行くところ行くところで手の触れる距離に立っていられたら、誰でも嫌になります。」
「ドミンゴ・ドーマーは何故自分で抗議しなかった?」
「コロニー人に若いドーマーが反抗すると思いますか?」

 レインは内務捜査班が何もしなかったことに腹が立った。

「相手は、出資者様ですよ。長官でさえ遠慮なさっている・・・」