ハイネが酸素ボンベを下げて、2人のコロニー人を見た。咳が収まって普通に話が出来る状態に戻っていた。
「さっきは油断して唾液が喉に詰まっただけですよ、ドクター。」
「誤魔化すな、格闘技はジョギングとは違うんだよ。」
ハイネはそれ以上医者と話たくないのか、ゴメス少佐を相手にして声を掛けた。
「楽しかったです。貴方の膝が万全だったら私は5分と保たなかったでしょう。」
「ご謙遜を・・・」
ゴメス少佐は苦笑した。
「貴方も俺の膝を狙わずに攻撃する余裕があったじゃないですか。手加減されてるとわかっていました。」
「そんな失礼なことはしません。」
ハイネが立ち上がった。まだ少し息が荒い。ヤマザキが彼に言った。
「着替えて医療区に来なさい。呼吸が楽になる飲み薬を処方しよう。」
ハイネは頷いただけで、ゴメスに一礼して闘技場から出て行った。その後を看護師が酸素ボンベを持ったまま追いかけて行った。
ギャラリーは既にいなくなっており、レインのファンクラブだけが出口で屯していたが、ハイネが通り過ぎる時にジロリと睨んだので、急いで外へ出て行った。
ヤマザキと少佐が世間話を始めたので、レインも闘技場を後にしてロッカールームへ急いだ。ギャラリーになっていた人々がヤマザキの言葉に従って素直に寝に帰るのであれば、ロッカールームは混雑していた筈だ。しかしまだ10時にもなっていなかったので、殆どは通路で立ち話をしたり、トレーニングの続きをしていた。
ロッカールームは空いていた。レインはアパートに帰ってシャワーを浴びようと思ったので、着替えだけした。汗が染み込んだ運動着はランドリーシュートに投げ込んだ。衣類には全て所有者のタグが付いているので、翌日には洗濯されて部屋に届けられる。
ラフな私服ではなく、スーツの上着なしの状態でロッカーから出ようとしたところへ、シャワーを終えた局長が現れた。男世界なので、腰にタオルを巻いただけの姿だ。胸の古い傷跡が色白の肌に更に白く目立っていた。生まれてから一度もドームの外に出たことがない男だが、案外スリリングな人生を送っているじゃないか、とレインは思った。
彼は局長に先刻の試合を見ましたと声を掛けた。ハイネはちょっと照れ笑いをした。
「日頃の私からは、らしくない 闘い方だったろう?」
「かなり戦闘的でしたね。」
「自分でもあんなにストレスが溜まっていたのかと驚いたさ。」
彼は腕を曲げ伸ばしした。
「明日は筋肉痛かも知れない。」
「でも、局長が優勢でした。」
「そうでもない。保安課長のパンチをかなり食らった。」
「殆ど躱されたと思いましたが?」
「そう見えただけだ。彼の動きは速かったからな。打たれたと思ったら、もう手を引っ込めていた。」
「しかし・・・最後の決め技は凄かったです。」
「あれは・・・」
ハイネがちょっと遠くを見る目付きをした。
「我が師であったランディ・マーカス局長の得意技だった。生前の彼に一度も勝てなかったよ。」
レインには15代目局長マーカスの記憶は朧げなものでしかなかった。時々養育棟に参観に来ていた姿を遠くからチラリと見ただけだ。子供のドーマーにとって、遺伝子管理局長は正に雲の上の人だったのだから。養育棟を卒業する頃には、既にハイネ局長の時代になっていた。
「あの・・・さっきの技を教えて頂けませんか?」
するとハイネが彼を振り返ってニヤリとした。
「君はしっかり見ていたじゃないか。実際にやって見て体で覚えなさい。君ならわざわざ私が教えなくても体得出来る。そして君なりの型を作れば良い。まぁ、練習台になってやっても良いがね。」
「さっきは油断して唾液が喉に詰まっただけですよ、ドクター。」
「誤魔化すな、格闘技はジョギングとは違うんだよ。」
ハイネはそれ以上医者と話たくないのか、ゴメス少佐を相手にして声を掛けた。
「楽しかったです。貴方の膝が万全だったら私は5分と保たなかったでしょう。」
「ご謙遜を・・・」
ゴメス少佐は苦笑した。
「貴方も俺の膝を狙わずに攻撃する余裕があったじゃないですか。手加減されてるとわかっていました。」
「そんな失礼なことはしません。」
ハイネが立ち上がった。まだ少し息が荒い。ヤマザキが彼に言った。
「着替えて医療区に来なさい。呼吸が楽になる飲み薬を処方しよう。」
ハイネは頷いただけで、ゴメスに一礼して闘技場から出て行った。その後を看護師が酸素ボンベを持ったまま追いかけて行った。
ギャラリーは既にいなくなっており、レインのファンクラブだけが出口で屯していたが、ハイネが通り過ぎる時にジロリと睨んだので、急いで外へ出て行った。
ヤマザキと少佐が世間話を始めたので、レインも闘技場を後にしてロッカールームへ急いだ。ギャラリーになっていた人々がヤマザキの言葉に従って素直に寝に帰るのであれば、ロッカールームは混雑していた筈だ。しかしまだ10時にもなっていなかったので、殆どは通路で立ち話をしたり、トレーニングの続きをしていた。
ロッカールームは空いていた。レインはアパートに帰ってシャワーを浴びようと思ったので、着替えだけした。汗が染み込んだ運動着はランドリーシュートに投げ込んだ。衣類には全て所有者のタグが付いているので、翌日には洗濯されて部屋に届けられる。
ラフな私服ではなく、スーツの上着なしの状態でロッカーから出ようとしたところへ、シャワーを終えた局長が現れた。男世界なので、腰にタオルを巻いただけの姿だ。胸の古い傷跡が色白の肌に更に白く目立っていた。生まれてから一度もドームの外に出たことがない男だが、案外スリリングな人生を送っているじゃないか、とレインは思った。
彼は局長に先刻の試合を見ましたと声を掛けた。ハイネはちょっと照れ笑いをした。
「日頃の私からは、らしくない 闘い方だったろう?」
「かなり戦闘的でしたね。」
「自分でもあんなにストレスが溜まっていたのかと驚いたさ。」
彼は腕を曲げ伸ばしした。
「明日は筋肉痛かも知れない。」
「でも、局長が優勢でした。」
「そうでもない。保安課長のパンチをかなり食らった。」
「殆ど躱されたと思いましたが?」
「そう見えただけだ。彼の動きは速かったからな。打たれたと思ったら、もう手を引っ込めていた。」
「しかし・・・最後の決め技は凄かったです。」
「あれは・・・」
ハイネがちょっと遠くを見る目付きをした。
「我が師であったランディ・マーカス局長の得意技だった。生前の彼に一度も勝てなかったよ。」
レインには15代目局長マーカスの記憶は朧げなものでしかなかった。時々養育棟に参観に来ていた姿を遠くからチラリと見ただけだ。子供のドーマーにとって、遺伝子管理局長は正に雲の上の人だったのだから。養育棟を卒業する頃には、既にハイネ局長の時代になっていた。
「あの・・・さっきの技を教えて頂けませんか?」
するとハイネが彼を振り返ってニヤリとした。
「君はしっかり見ていたじゃないか。実際にやって見て体で覚えなさい。君ならわざわざ私が教えなくても体得出来る。そして君なりの型を作れば良い。まぁ、練習台になってやっても良いがね。」