2018年6月28日木曜日

待機者 5 - 1

 視察団は慌ただしく昼食を終えるとゲストハウスに戻り、帰り支度をした。そしてドーマー達がいつもの時間に食堂へ繰り出す頃に送迎フロアに集合していた。全員が遅れずに集まったのは、暴風雨の接近のお陰だった。まだ雨は降り出していなかったが、風が出て来ており、南の空に真っ黒な雲の前線が見えた。それを見ただけで宇宙から来た大富豪達は怖気付いた。
 ケンウッドも不安になり、引率の地球人類復活委員会の執行部役員にそっと囁きかけた。

「出発を遅らせた方が安全じゃないかね?」
「否、これぐらいで良いんですよ。」

と役員が片目を瞑って見せた。

「遅れたら遅れたで、また厄介な仕事をお宅に押し付けることになるしね。」

 もし暴風雨のせいで事故でも起きたら、それはアンタ等の責任だからな、とケンウッドは心の中で呟いた。何が起きようが、ドームの外で起きることは関係ない。
 挨拶に顔を出したローガン・ハイネ局長は女性達に囲まれていた。同じく挨拶に出て来た維持班総代のジョアン・ターナー・ドーマーが気の毒な程人気を独占していたが、ターナーは寧ろ安心しきった顔で出産管理区代表で並んでいる副区長のシンディ・ランバート博士と談笑していた。
 副長官のラナ・ゴーン博士は視察団の男性達と別れを惜しんでいた。恐らく演技なのだろうが、なかなか真に迫った寂しがりようだ。
 執行部役員が声を張り上げた。

「それでは皆さん、ドームからお暇いたしましょう。皆さんの秘書や警護の方もシティから到着しましたので、搭乗ゲートに向かいます。」

 ケンウッドは長官として挨拶しなければならない。彼は短い方が喜ばれるとわかっていたし、実際問題、あまり時間的余裕が客の方になかった。

「それでは視察団の皆様、お帰りの旅の安全をお祈りしております。ご無事にお家に着きますように!」

 そして視察団はさようならと口々に挨拶を言ってゲートの向こうに消えて行った。クロワゼット大尉も、レインとハイネにサインをせがんだ女性2人組も、宇宙へ旅立って行った。
 笑顔で手を振り続けていたケンウッド達は、ゲートが閉まると、ホッと肩の力を抜いた。本当はシャトルが飛び立つ迄気を抜けないのだが、人間がいなくなると安心してしまう。
 ケンウッドはランバート博士とターナー・ドーマーに持ち場に戻るようにと指図した。2人共喜んで解散して行った。

「今夜のビールは美味しいでしょうね。」

とラナ・ゴーン博士が呟いた。ハイネが振り返った。

「ご相伴しましょうか?」
「お心遣い有難うございます。」

 彼女が笑いながら言った。

「でもクロエルがいますから。」