2021年3月13日土曜日

星空の下で     3

  ピーター・ゴールドスミスが医療区の端を抜ける近道を歩いていると、後ろから早足でやって来る足音が近づいて来た。彼が道を空ける為に脇へ寄ると、後ろから来た人が声をかけて来た。

「有難う、ピーター。今日は休みなんだね。」

 ゴールドスミスが心から尊敬する数少ないコロニー人、医療区長のヤマザキ・ケンタロウだった。決して小柄ではないのだが、東洋系なのでヨーロッパ系のゴールドスミスと並ぶと小さく見える。しかし人間がデカイので、相手に馬鹿にされるような気配は全くない。
 ゴールドスミスは医者がアシスタントロボットを引き連れているのを見た。

「往診ですか、ドクター?」
「うん。」

 急いでいるのか、ヤマザキは自分より大股で歩くゴールドスミスを追い越そうとしていた。

「こんな場合、どうしてドームには乗り物がないのか、恨めしく感じるね。」

と言いつつ、彼はせっせと足を運んだ。ゴールドスミスは突然興味が湧いた。ドームの中で感染性の病人が発生するのは滅多にないことだ。それは入り口で入って来る全ての物、人間が念入りに消毒されるからだ。したがってドームの中の患者は、持病を抱えたコロニー人か、仕事中に怪我をしたドーマーだ。しかしコロニー人の執政官はほぼ全員が医師免許を持っている。それぞれ専門はあるだろうが、心臓発作や血管性の発作の応急処置などは出来る人々だ。医療区から医師を呼ばなくてはいけない急病人とは? ゴールドスミスは自分に手伝えることはありませんか、尋ねてみた。ヤマザキは横に並んで離れないパイロットを横目で見た。

「君がこの中でヘリを飛ばせたら良いのにな。」

 だが付いて来るなとは言わなかったので、ゴールドスミスはそのまま彼と一緒に食堂を通過して、中央研究所を通り過ぎ、居住区のアパートが並ぶ区域に入った。

「輸送班の反重力スレーを使えないんですか?」
「そんなのを使ったら、ドーム内が大騒ぎになる。患者が嫌がるだろう。」

 ヤマザキが妻帯者用アパートの入り口に入ったので、ゴールドスミスも付いて入った。エレベーターに乗ると、ヤマザキが呟いた。

「最上階。」

 それを聞いてゴールドスミスは驚いた。妻帯者用アパートの最上階には一家族用の部屋しかない。そこに誰が住んでいるのか知らない者がいたら、ドームではモグリだ。

「局長に何かあったんですか?」
「あったから今向かっているんだ。」

 ヤマザキは初めて彼にまともに顔を向けた。

「噂にして欲しくなかったから、君が付いて来るのを許した。ここまで付いて来た以上、これから手伝ってもらうぞ。そして僕が良いと言うまでは口外しないでくれないか。」

 ゴールドスミスはヤマザキに信頼してもらえるのだと思うと嬉しくなった。

「わかりました。手伝わせてください。」