2018年12月5日水曜日

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 ケンウッドはクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーと2人きりになった。ワグナーも疲れている筈だ。レイモンド・ハリス支局長の裏切り行為を捜査し、証拠固めを行い、逃亡したハリスをヘリコプターを自ら操縦して追跡した。そして事故死したハリスの遺体の回収とドームへの送付も行った。それからクロエルが率いる仲間と合流して、衰弱しているポール・レイン・ドーマーの世話をしていたのだ。

「無理をしなくても良いんだよ、ワグナー。レインは暫く医療区に留め置かれるだろうから、君が北米南部班の指揮を執ることになるだろう。早く帰って休みなさい。」

 体格の良いワグナーが微笑した。

「お気遣い有り難うございます。でも、あと少しだけですから。」

 その時、ゲートからストレッチャーに載せられた男が現れた。ぐったりとして、目を閉じていたが、顔色は悪くない。年齢は40代後半か50代になるかならないかだ。
 ケンウッドは思わずストレッチャーに近づき、その男を見下ろした。ワグナーが後ろで紹介した。

「ラムゼイの秘書、ジェリー・パーカーだそうです。」

 ワグナーにしても、このパーカーと言う男をよく知らない。メーカーの捜査をしている時にラムゼイと共に彼の名前をよく耳にしたが、実物に会ったのはその日が初めてだった。
 ケンウッドは己の心臓がパクパク音を立てているかと思った。それだけ彼は緊張していた。そっと手を男の顔に伸ばしてみたが、指が震えていたので、触れるのを止めた。
彼は喉から声を搾り出した。

「素晴らしい。」

 ワグナーは長官の後頭部を見つめた。ジェリー・パーカーの何がケンウッドを感動させたのだろう?
 ケンウッドは係官にストレッチャーとパーカーを医療区へ連れて行けと指図した。