2018年12月14日金曜日

トラック    2  3 - 4

 ポール・レイン・ドーマーは今回の捕虜体験で一番恐怖を覚えたのは、ラムゼイに素手で触れられた時だったと打ち明けた。ラムゼイの思考とも空想とも判別つきかねる暗黒の感情がレインを襲ったのだ。ラムゼイ自身は全くそのことに気づかなかった。レインは無言で耐え・・・

「俺はそこで気絶してしまいました。それ以上は耐えられませんでした。」
「それで良かった。君の精神が崩壊してしまうところだったろう。」

 ケンウッドはドーマーの目を見て微笑んだ。

「君が正常の精神を保っていて嬉しいよ。」
「次に目が覚めたら、小部屋に監禁されていました。セイヤーズの息子が食事を持って来てくれましたが、食欲がなかったので口にしませんでした。」
「その時に彼と話したのだね?」
「はい。思ったより素直でしっかりした子でした。怪我をしたのでラムゼイに拾われてしまい、少女と互いを人質にされて反抗出来ない状況になっていました。」

 ケンウッドは少し躊躇ってから尋ねた。

「彼は君の息子だと思うかね?」

 するとケンウッドの気が抜ける程にあっさりとレインは「はい」と答えた。

「テレパシーのエコーで確認しました。」

 テレパシーのエコーとは、同じ遺伝子を持つ人間同士がキスをすることで互いの思考の波の周波数が同じであることを感じ合う・・・とケンウッドは遠い昔に聞いたことがあった。彼自身はテレパシーを持っていないので、それがどんな感覚なのか皆目見当がつかないのだ。
 うん、と曖昧に頷いて、彼はレインが疲れる前に少女に話題の中心を持っていった。

「JJ・ベーリングとは、トラックの中で知り合ったのか?」
「そうです。アジトを出発した時は、彼女とライサンダーと俺の3人で荷台に押し込まれていました。ライサンダーが眠ったので、彼女が俺に話しかけてきました。つまり、手を握って心で話しかけて来たのです。」
「君が若い女性を上手にあしらうことは知っている。どんな話をしたのか教えてもらえるかな? これから我々は彼女の能力を研究し、我々の研究の手助けをしてもらおうと思っている。彼女はその・・・」

 ケンウッドが言葉に詰まると、レインは長官が何を言いたいのか理解した。

「あの娘が本当に染色体を見ているのか、と言うことですね。実を言うと、俺もよくわからないのです。言えることは、普段の彼女は俺達と同じ風景を見ているってことです。ただ、人を識別する時に、何かキラキラひかるものを見ているみたいで・・・」