2018年12月1日土曜日

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 現地との通話を終えて、ハイネは自身の席に戻った。ネピア・ドーマーも秘書席に戻り、セルシウス・ドーマーは局長に帰宅の挨拶をする為に近づいた。ハイネは南北アメリカ大陸現地から送信が始まった部下達の報告書を読む為にファイルを開きかけていたが、セルシウスがそばに来ると手を止めた。

「ジェレミー、グレゴリーに会う予定はあるかね?」
「今日ですか?」
「うん。」

 セルシウスはグレゴリー・ペルラ・ドーマーが買い物をする時刻はいつだったかと頭の中で考えた。

「多分、夕食の後にコンビニに行けば出会えるかと。何か言付けでも?」
「言付けと言うほどの物でもないが・・・」

 ハイネが奥歯に物が挟まった様な言い方をした。

「我々はラムジーの宝物を手に入れた様だと言っておいてくれないか? 出会った時で良いから。」
「ラムジーの宝物・・・ですか?」

 怪訝そうな表情のセルシウスだったが、やがて何かに思い当たった。彼は思わず局長の執務机の縁を掴んで体を前へ傾けた。

「局長、では、先程の男が・・・?」

 ハイネがしーっと指で合図した。ネピアとキンスキーは上司と元上司の会話を聞いていないフリをした。聞こえているが、何のことなのか、彼等にはまだ理解出来ていなかった。ハイネが囁いた。

「まだ確定した訳ではない。実物を検査してみなければならないからな。」

 セルシウスはわかりましたと応え、挨拶をして部屋から出て行った。
 ハイネは物問いたげな2人の秘書を無視して報告書のファイルを開いた。日常業務の報告書が南北アメリカ各地から次々と送られて来る。北米中西部で行われた大捕物と無関係の平和な人間の生活を円滑に進める為の、申請書や証明書の希望者との面談の様子や、山奥の村の女性不足の実態など、毎日読んでいるものと似たり寄ったりの内容だ。しかしハイネは飽きることなくそれらに目を通す。部下達がどの様に働いているか、ドームの外の人々が何を求めているのかを知る為に。
 2時間後には、セント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンにある遺伝子管理局出張所からも報告書が送信されて来た。部下達が砂漠の中で行われた捕り物の報告を始めたのだ。勿論クロエルとセイヤーズが書いたものもあった。セイヤーズの報告書は初めて目を通したが、能天気な性格の割には詳細でわかりやすい真面目な文章だった。