2018年12月24日月曜日

リンゼイ博士 2 1 - 5

 ハイネ局長の予定はいつもと変わらなかった。ケンウッドも特に大きな変化はない。JJ・ベーリングの遺伝子が見えると言う能力の確認もクローン製造部に任せることにした。恐らくダルフーム博士も興味を抱いているから、ゴーンに共同研究を持ちかけるだろう。
 昼食の誘いをゴーンは断った。女性達で食べる約束をしているので、と言い訳して、打ち合わせを終えるとさっさと部屋から出て行った。
 ケンウッドが打ち合わせの記録をコンピュータに登録している間、ハイネは端末を眺めていた。部下からの報告だと思っていると、局長が顔を上げた。

「セイヤーズから報告が上がりました。」
「ラムゼイの死亡の件か?」
「そうです。確かに異常な出来事に思えます。」

 ハイネは簡潔に報告内容をケンウッドに説明した。セイヤーズとクロエルはトーラス野生動物保護団体のビルで、リンゼイと名乗るラムゼイと面会した。面会の手筈は、アーシュラ・R・L・フラネリーが団体の幹部役員に話をつけてくれたのだ。出会ってしまうとラムゼイは遺伝子管理局の2人と色々話をした。そのうち彼は場所を移動しようとして、反重力サスペンダーの操作をした。その時、クロエルが機械の異常音に気がつき、彼を止めようとした。しかし遅かった。ラムゼイは突然跳び上がり、天井に頭部を激突させ、即死した。その場にいた人々は全員ショックを受けた。

「セイヤーズは直ちにその場を封鎖し、ビルの下の階で出入りする人間を見張っていたニュカネンに連絡しました。ニュカネンは警察と共に現場へ急行し、初動捜査に当たりました。」
「クロエルは?」
「彼は飛び散ったラムゼイの血液や脳髄などを浴びてしまったので、セイヤーズが洗浄を命じ、彼はそれに従いました。」

 ケンウッドは思わずその光景を想像してしまい、気分が悪くなった。

「昼食前に聞く話ではなかったな・・・」
「申し訳ありません。しかし、朗報もあります。」
「なんだね?」

 ハイネがちょっぴり皮肉っぽく笑った。

「セイヤーズ自ら、今夜帰ると言っています。」