2018年12月30日日曜日

新生活 2 1 - 9

「長官、待って下さい。」

 ハイネ局長が声を掛けた。

「50年前の事件の時、貴方も副長官も地球にはまだいらっしゃらなかったでしょう? 出身地のコロニーで研究に勤しんでおられたはずです。事件は時事ニュースで知られた程度ではありませんか? ここにいる若いドーマー達は生まれてもいなかった。
 しかし、私はここに居ました。進化型1級遺伝子のお陰で外には出してもらえなかったが、遺伝子管理局内務捜査班として、ラムジーの研究室の捜査をしたのは、この私です。」

 ここで一瞬ハイネは言葉を途切れさせた。何かを考え、言おうとして考え直して止めた、そんな印象をケンウッドは感じた。そして、ハイネは再び話し始めた。

「徹底的に彼の研究内容を調べましたが、彼がミイラからクローン再生に成功したと言う記録も証拠も何もありませんでした。 もし、パーカーがミイラから創られたクローンなら、ラムジーは再生に成功したと言う記録を残したはずです。犯罪であっても、クローン技術史には大きな足跡となるからです。」

 確かに、その通りだ、とケンウッドも思った。それにラムゼイことサタジット・ラムジー博士が盗み出したのはミイラの細胞ではなく、生きたまま氷漬けになった赤ん坊の細胞だ。
 しかしハイネはそれに触れずに続けた。

「ラムジーは、セイヤーズ達にはったりをかましたのです。彼は数分後には死ぬ運命だとは想像もしなかったはずです。だから、手の内を見せるつもりはなかった。シェイと言う女性がジェネシスであることは、直にばれるので、明かしただけでしょう。しかし、パーカーの正体は目で見ただけではわからない。」
「ミイラからのクローンでなければ、パーカーは何なのだ? ただの地球人の男か?」
「ですから、セイヤーズが聞いた話の半分は本当なのでしょう、パーカーは古代エジプト人の赤ん坊だったんです。但し、クローンではなく、オリジンとして。」
 
 そんなことは知っている、とケンウッドは言おうとして、ハイネは彼にではなく、ドーマー達に語っているのではないか、と思い直した。「死体クローン事件」は図書館でドームの歴史を調べれば必ず出てくる事件だ。しかし余り詳細は記録されていない。事件の概要だけで、実際にラムジーが持ち出した物や捜査官だったペルラ・ドーマーが瀕死の重傷を負わされたことは一般には公表されていないのだ。

 セイヤーズは局長の言葉を理解しようと考え込んだ様子だ。 その時、レインが呟いた。

「ミイラの腹の中に赤ん坊がいて、そいつは薬品の影響をうけず、防腐処理の時に他の臓器と一緒に取り除かれもせず、奇跡的に時間が止まった状態で眠っていたとしたら?」

 見当違いだが、ケンウッドは、訂正してやるつもりはなかった。そして彼に結論を出すのは時期尚早だと言った。

「パーカーはもう少し慎重に調べよう。あの男が異変前の遺伝子を持っているのであれば、これは地球人の復活に大きな進展をもたらすはずだ。彼が精神的に落ち着き、我々を信用してくれるように、努力するよ。」