2018年12月31日月曜日

新生活 2 2 - 3

 自然な流れでハイネと仲直り出来たケンウッドは彼を伴って昼食に出かけた。打ち合わせは自然消滅したし、遺伝子管理局長の日課も結局ネピア・ドーマーに全て丸投げになってしまったが、それは大きな問題ではなかった。
 一般食堂に行くと、日課を無事に終わらせることが出来たネピア・ドーマーが先輩で彼を局長秘書に選んでくれた恩人でもあるグレゴリー・ペルラ・ドーマーとランチをしている姿が見えた。珍しいこともあるものだ、とケンウッドは思った。
 少し離れたテーブルに席を取ってハイネと食事を始めると、新旧の局長秘書達は先に食べ終えて、席を立った。ネピア・ドーマーは上司に軽く会釈して食堂を出て行った。ペルラ・ドーマーは上司のテーブルにやって来た。この男も最近は杖のお世話になるようになったが、まだ体も頭もしっかりしている。挨拶してから、彼は隣の空いたテーブルの椅子に座った。
 
「ネピアから聞きました。サタジット・ラムジーが死んだそうですね。」

 ハイネは自分で彼に教えるつもりだったので、ちょっとがっかりした。だが思い直した。教えて彼を喜ばせられると思ったのか? それとも生かして逮捕出来なかったと悔しがらせたかったのか?
 ハイネは頷いて見せた。

「突然の出来事だったそうだ。重力サスペンダーの誤動作に見えたそうだが、クロエルは殺人の疑いありと主張している。セイヤーズも同意見だ。」

 ペルラ・ドーマーはハイネとケンウッドを見比べた。ケンウッドは自身の意見を控えた。現場を見た訳でないし、警察の資料も見ていない。第一遺伝子管理局に殺人事件の捜査をさせることは出来ない。
 ペルラ・ドーマーもそこのところは十分承知していた。元局員だし、法律は知っている。

「外の世界は複雑ですな。」

と彼は感想を述べただけだった。

「彼の遺体は宇宙へ送るのですか?」
「否・・・その手続きはしていない。ラムジーは宇宙に親族がいないし、警察も引き取れと言ってこない。」

 まだ検視段階だ。それに宇宙連邦警察が追っていた犯罪者の遺体の世話は、ドームの管轄ではない。元ドームの執政官だが、当時の関係者はもうドーマーしか残っていないので、地球人類復活委員会もドームで処理しろとは言って来ない。
 ペルラ・ドーマーがハイネを見た。

「地球で埋葬するのでしたら、遺伝子管理局の死亡認知が必要ですが?」

 ハイネが溜息をついた。

「マザーコンピュータからラムジーのリストを検索しよう。元執政官だから、データは残っている筈だ。長官、コロニー人のリスト閲覧許可を願います。」

 平素勝手にコロニー人のデータをハッキングしているハイネがそう言うので、ケンウッドはもう少しで笑うところだった。