2018年12月18日火曜日

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 ケンウッドがクロエルの報告書を読み終えた途端に、ハイネの端末にセイヤーズから報告が入った。ハイネは無言でそれを読んだ。セイヤーズはアーシュラと面会する迄の過程をクロエルより詳細に書いているくせに、肝心のアーシュラとの会談は簡潔に済ませていた。

ーーアーシュラ・R・L・フラネリーは知人のリンゼイ博士なる人物がメーカーのラムゼイであると知ると、彼を匿っていると思われるトーラス野生動物保護団体の役員に繋ぎをつけてくれると約束した。明朝午前10時に団体ビルでリンゼイと面会予定。

 その簡潔さにハイネは、逆に深い意味を感じ取った。アーシュラはセイヤーズに何か交渉条件を提示したに違いない。あの女性は何を望んでいるのか。今更ながら息子に会いたいと言うのだろうか。
 気がつくと、ケンウッドとヤマザキがハイネを見つめていた。ハイネは無言のままセイヤーズの報告書を2人の端末にシェアした。それを読んだヤマザキは「おっ!」と明るい驚きの声を上げ、ケンウッドはセイヤーズがまだ帰って来ないと知ってがっかりした。
 ヤマザキがハイネに質問した。

「ラムゼイを逮捕したら、誰が取り調べるんだ? 警察か? それともドームか?」

 ハイネは即答した。

「メーカーとしての取り調べは警察がします。『死体クローン事件』の容疑者としての取り調べはドームがします。彼はコロニー人ですから、執政官の判断にお任せします。」
「どっちが優先するんだ?」

 するとケンウッドが我に帰ってヤマザキに言った。

「警察が優先だよ、ケンタロウ。ドームが先に彼を収容したら、警察に戻すことはないだろう。月の連邦検察局に送致されるからね。だから、地球人の仕事を優先させる。それが私の判断だ。」
「地球の刑務所にぶち込まれたら、彼は生きているうちにこっちの裁判を受けられないんじゃないか?」
「そこは、私が地球の政府と交渉するさ。その為の長官だ。」

 彼はハイネが口元に意味不明の笑みを浮かべるのを目撃したが、それに関して言及しなかった。