2018年12月15日土曜日

トラック    2  3 - 5

「キラキラひかるもの?」
「はい。俺が感じたのは、そう言うイメージでした。けれど、図に描かせると彼女はちゃんと遺伝子マップを描くのです。」
「不思議な娘だな・・・」

 思わずケンウッドはそう呟いてしまった。科学者として「不思議」はない筈なのだが。
レインは疲れてきたのか、目を閉じかけたが、長官の前で眠るのは失礼と思うのだろう、頑張って瞼を上げた。

「長官・・・」
「なんだい?」
「セイヤーズはこれからもこのドームに居ますか?」

 レインは恋人とずっと一緒に暮らせるのかと聞いているのだ。
 ケンウッドは大きく頷いて見せた。

「ああ、彼は約束してくれた。一生ここにいると。」
「良かった」

 最後は小さな声だった。レインは本当に疲れたらしく、目を閉じた。
 ケンウッドも小声で「おやすみ」と囁きかけ、静かに病室を出た。
 通路に出ると、驚いたことにハイネ局長が立っていた。ガラス越しに見えていた筈だが、ケンウッドはレインにばかり注意を向けていて気づかなかったのだ。

「来ていたのか。入ってくれば良かったのに。」
「私はレインに用事があったのではありません。」

 2人は出口に向かってゆっくり歩き始めた。ハイネが端末をちらりと見て、ケンウッドに告げた。

「セイヤーズとクロエルが、アーシュラ・フラネリーと面会します。」
「アーシュラ・・・?」

 ケンウッドは咄嗟にそれが誰なのか思い出せなかった。女性だ、と思ったが、何者なのかわからなかった。怪訝そうな顔の彼を見て、ハイネが説明した。

「現アメリカ大統領の母親です。」

 ケンウッドはちょっと考えて、ハッと気が付いた。ポール・レイン・ドーマーの母親だ。ケンウッドが20年前に研究用細胞提供に協力してもらった政治家の元ドーマー、ポール・フラネリーの妻だ。息子2人に接触テレパスの遺伝子を継がせたサイキックだ。だが、何故遺伝子管理局が彼女と接触するのだ? セイヤーズ達はラムゼイを追っているのではないのか?

「セイヤーズとクロエルは何が目的でアーシュラに面会するのかね?」

 ハイネは立ち止まって低い声で言った。

「ニュカネンの報告はセイヤーズとクロエルが彼女と会うつもりだと、そこで終わっています。」
「ニュカネンは一緒ではないのか?」
「彼は警察の要請で身元不明の遺体のDNA鑑定をする為に、彼等と別れたのです。」
「では・・・」

 問題児と破天荒なドーマー2人は野放しか、とケンウッドは思わず天を仰いだ。ラムゼイ捜査の為に大統領の母親と面会するのだろう。失礼なことをしなければ良いが・・・。