2018年12月8日土曜日

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 ケンウッド達が医療区でジェリー・パーカーの今後の処遇を相談している頃、中央研究所食堂の出産管理区エリアでは、JJ・ベーリングとキャリー・ワグナー・ドーマーが朝食を摂っていた。ビュッフェで好きなものを好きなだけ取れると教えられ、食べたい盛りのティーネイジャーは大喜びで、朝ご飯にしては多過ぎるのではないかとキャリーが心配する程皿の上に肉類や野菜、果物をどっさりと盛り付けてテーブルに着いた。

「いつもそんなに食べるの?」

 思わずキャリーが尋ねると、JJは首を横に振った。ドームから渡されたタブレットに文字を打ち込んだ。脳波で思考を音声に変換する装置があるのだが、彼女は昨夜遅く来たばかりで機械の調整がまだだった。食事の後でその機械を調整して受け取るのがその日の午前中のスクジュールだ。

ーーいつもはダイエットしてる。でも今日は特別。こんな食べ方、初めてだから。

 JJは冒険しているのだ。キャリーは思わず微笑んでしまった。

「貴女って、いつも前向きなのね!」

 JJは嬉しそうに微笑みを返した。褒められたとわかったのだ。周囲には出産を控えた女性やお産が済んで間も無く帰宅を許される女性が大勢いた。JJの様な若さの人は少ないが、それでも誰も彼女を特別な存在とは思っていないらしい。心地よい無視の状態で、2人は賑やかな会話の声に包まれて食事をした。
 JJがまた文字を打ち込んだ。

ーーこんなにたくさんの女の人を見たのは初めて。まるで映画かテレビみたい。

 ああ、この子は世間から隔離されて育ったのだ。キャリーは部屋兄弟のダリルから彼女のことを聞かされていたので、事情は呑み込めた。男ばかりの世界、狭い屋敷の中で、唯一知っている女性は母親だった。

「ここにいる女性はね、赤ちゃんを産む為にここに来ているの。そして赤ちゃんを産んだら、赤ちゃんを連れてお家に帰るの。」

ーーここは赤ちゃんを産むところなの?

「そうよ。ドームは赤ちゃんを産む為の施設なの。後でここの歴史を学習しましょう。」

 JJには嘘をつく必要がない。取り替え子のことも説明して良いと上から指示をもらっていた。何故なら、この少女はこれからずっとこのドームで暮らすからだ。
 ふーんと言いたげにJJは食べながら周囲を見回した。向こうからラナ・ゴーン副長官とアイダ・サヤカ出産管理区長が歩いてくるのが見えた。彼女が首を傾げた。そしてキャリーを振り返った。

ーーあの人達は何なの?

「誰のこと?」

 キャリーはキョトンとした。JJが指差した2人が彼女達のテーブルに近づいて来た。キャリー・ワグナーはちょっと慌てた。JJの手をそっと抑えた。

「人を指差しては駄目よ。」

 そして上司達に挨拶した。

「おはようございます、副長官、出産管理区長!」