2018年12月4日火曜日

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 ケンウッドとハイネは送迎フロアで帰投した若いドーマー達を迎えた。前日にラムゼイ一味を一網打尽にするつもりで意気揚々と出かけて行った彼等は、この夜は疲弊して足取りも重く消毒ゲートを抜けて戻って来た。先頭はクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーで、すぐ後ろにポール・レイン・ドーマーが自分の足で歩いて来た。弱みを見せたくないので、やせ我慢して自力歩行しているのだが、その後ろにはストレッチャーを用意したゲート係官が待機していた。
 ワグナーとレインは長官と局長に気がつくと足を止めた。レインが前に出た。

「ただ今戻りました。ご心配をおかけし、申し訳ありませんでした。」

 顔色が悪い、とケンウッドが気付いた直後に、ハイネが前に踏み出した。

「よく戻った。報告書は読んだぞ。あの状況で敵の様子をしっかり観察したとは、大したものだ。」

 そしていきなりレインを抱き締めたので、ケンウッドは驚いた。しかしレインの足がもつれかかるのを見て、ハイネは彼を支えるのが目的で前に出たのだと悟った。ローガン・ハイネは若い連中に自身の弱いところを見られるのを極力嫌う。だから、彼はレインが部下の目の前で倒れるのを防いだのだ。ポール・レイン・ドーマーにもその心は伝わったのだろう、美貌のドーマーの顔にやっと安堵の色が浮かんだ。
 ケンウッドはストレッチャーを手前に置いて待機しているゲート係に声を掛けた。

「チーフ・レインをそれに載せて医療区へ運んでくれないか? 無傷だと聞いているが、清潔とは言えない場所にいたから、検査が必要だ。」

 そしてレインを振り返った。

「レイン、ストレッチャーに乗りなさい。たまには楽をするのも良いものだよ。」
 
 普段のレインなら強がって自分で歩くと言い張っただろうが、この時、彼は周囲が驚く程素直にケンウッドの言葉に従った。ワグナーに一言、あとは任せる、と言って、彼は医療区へ運ばれて行った。
 やはり体力の限界に来ていたのだ、とケンウッドは若いドーマーが可哀想に思えた。ラムゼイは彼にどんな仕打ちをしたのだろう。
 ハイネ局長は残った部下達を見回した。局員達も前日早朝から働き詰めだ。昨日は敵に捕まったチーフの身を案じて一睡も出来なかっただろうし、今日は捕物と押収物の仕分けで忙しかった。彼等もチーフ同様抗原注射の効力が切れかかっていた。
 ハイネが優しく言った。

「君達の報告書も読んだ。指揮官不在の状況でチームの和を乱さずによく頑張った。疲れているだろうから、今日はこれで解散しなさい。明日はゆっくり休むと良い。」

 ケンウッドも一声掛けた。

「ご苦労だったね。色々大変だったろう。体調が悪い者はすぐ医療区へ行くこと。局長の許可が出たから、明日はゆっくりしなさい。では、おやすみ。」
「おやすみなさい。」

 ドーマー達は銘々上司に挨拶して通路へ入って行った。
 ケンウッドとハイネが彼等を見送っていると、ワグナー・ドーマーが最後まで残っていて、話しかけてきた。

「ラムゼイの秘書と、JJと呼ばれる少女も連れて帰ってきましたが、まだ消毒が終わっていません。彼等は外の人間なので、消毒も念入りにしています。ここへ出てくる迄僕は待とうと思いますが、お二人はどうされますか?」

 ケンウッドとハイネは顔を見合わせた。遅い時刻だ。コロニー人のケンウッドはあまり時間に縛られないが、ハイネは朝が早い。それに前夜は徹夜させてしまった。

「私が残ろう。局長はもう帰ってよろしい。」

 長官の権限で局長に指示を出した。

「ラムゼイの秘書と少女も今夜は医療区に収容させる。これからいつでも会えるだろう?」

 ハイネも素直に従った。ちょっと笑って見せて、

「わかりました。では今宵はこれで退散します。おやすみなさい。」

と挨拶した。そしてワグナーには、早く帰れよ、と囁いて去って行った。