2018年12月20日木曜日

リンゼイ博士 2 1 - 2

 幹部会議で話が通っていることを他の執政官達に納得させる為にまた繰り返す。ケンウッドはいい加減疲れていた。ハイネも幹部達も同じだろうと思った。ラムゼイの秘書ジェリー・パーカーが「死体クローン事件」で盗まれた細胞から作られたクローンに違いないと言う意見もまだ一般には公開出來ずにいる。確定しないことには発表出来ないのだ。
 この日の執政官会議は普段の時刻より開始を2時間送らせて午前9時から始めた。ハイネの日課が終わったのが8時半だった。会議があると聞いてハイネはいつもより早めに早朝の運動を切り上げ、仕事をしたのだ。彼の努力に報いる為にケンウッドは会議を定時の7時開始を9時まで遅らせた。すると意外にも執政官達にも評判が良かったのだ。朝食を余裕で済ませて研究の準備だけしてから会場に集まって来た。これからこの時刻で始めても良さそうに思えたが、ハイネの日課が多い日は遺伝子管理局長抜きで会議をしてしまうことになるので、それは考えない方が良さそうだ。
 議場内の話題がラムゼイからJJ・ベーリングの存在に移った。遺伝子操作で生まれた少女を今後どう扱うべきかと議論した。クローンとして扱い、健康の問題がなければドームの外に戻せば良いと言う意見や、人造の染色体を持つ人間を野放しに出來ないので彼女を一生ドームに住まわせるべきだと言う意見が出た。少女の尋常ではない能力をここで公表する訳にいかず、彼女をドームに留め置く正当な理由を幹部は捻り出さねばならなかった。
 ラナ・ゴーン副長官が発言した。

「ベーリングはまだ17歳です。親の勝手で屋敷の中に幽閉の形で育てられ、外の世界を知りません。はっきり言えば、私達のドーマーよりも世間知らずです。けれど、知能は高く、人としての常識や感情は備わっています。彼女を外の世界に出すことは、彼女を見捨てることになるでしょう。しかし、彼女をドームに留めて教育を受けさせれば、彼女は優れた遺伝子学者になる筈です。親の影響で染色体の分析に優れた能力を発揮させるのですよ。」

 重鎮ダルフーム博士も副長官の肩を持った。

「もうすぐ退官する私にも意見を言わせて頂きたい。JJ・ベーリングには私も面会しました。非常に利発で思慮深い女性だと言う印象を持ちました。彼女は染色体の分析に大いに興味を持っており、現在の地球が抱えている最大の問題も承知しています。何が必要な研究なのか、彼女はあの若さで既に理解しているのです。
 皆さんの中には、あんな小娘と同列で研究をするのは御免だと思う人もいるでしょう。しかし、我々の本来の役目を思い出して頂きたい。我々は地球人を復活させる、それだけの為にここにいるのです。そして、あの少女は我々には考えつかなかった、想像すらしなかった遺伝子の謎を解こうとしてるのです。
 どうか、彼女をこのドームに置いてやってくれませんか?」

 議場内がザワザワと騒がしくなった。少女にここで話をさせてはどうかと言う意見がケンウッドの耳に入った時、ハイネの端末に緊急連絡の信号が入った。ハイネが眉を顰めて端末をポケットから出した。画面を見て、ケンウッドを振り返った。電話に出て良いか、と目で許可を求めて来た、とケンウッドは解釈した。

「出なさい、ハイネ局長。」

 議場内が静かになった。ハイネ局長は発信者の名を告げた。

「リュック・ニュカネン、セント・アイブス出張所の所長です。」

 そして端末に声を掛けた。

「ハイネだ。どうした?」

 ハイネが拡声にした端末から、リュック・ニュカネンの硬い声が聞こえてきた。

「局長、ラムゼイが死亡しました。クロエルが、殺人事件だと言っています。」