2017年11月3日金曜日

退出者 3 - 4

 ローガン・ハイネ遺伝子管理局長とキーラ・セドウィック出産管理区長がドームの一般食堂で仲良く夕食を摂る頃、ニコラス・ケンウッド・アメリカ・ドーム副長官は遺伝子管理局員ポール・レイン・ドーマーとリュック・ニュカネン・ドーマーと共にその夜の宿泊場所であるホテルから徒歩5分の位置にあるレストランで夕食を摂っていたが、こちらは仲良くとは言い難い雰囲気だった。
 3人はセント・アイブス・メディカル・カレッジで遺伝子工学の権威達の研究内容について抜き打ち視察を行った。遺伝子学者達はドームからの突然の客に大慌てで迎え入れる態勢すら取れなかったが、ケンウッドは彼等の研究室に可能な限り入り込み、何をしているのかじっくり眺めた。レインもニュカネンも抜き打ち視察は何度も経験済みだが、やはり専門家同伴は初めてで、何を見るべきなのかをケンウッドの行動から学ぶことが多かった。学者先生達は冷や汗ものだった。違法研究をしていなくても、何か不備を指摘されると研究がそこで足踏みしてしまうからだ。
 レインはケンウッドが見たがる物を覚え、彼も学者達に質問をしたり端末に研究の様子を記録した。ニュカネンがそれに関して正式な手順を踏むべきだと言いだし、2人は大学構内から出るなり口論を始めた。ケンウッドは困惑して彼等を車に乗せ、近所の公園まで走ってから、駐車場で彼等の気が済むまで議論させた。2人が疲れた頃に、彼は口をはさんだ。

「私がここに来たから君達は喧嘩しているのかな?」

 レインがびっくりして副長官を見た。

「何故博士が俺達の喧嘩の原因になるのです? 俺はリュックの規則、規則と規則にがんじがらめになっている性格にうんざりしているだけですよ!」

 ニュカネンも言った。

「私はレインのなんでも適当にやってしまうところが嫌いなんです。」

 ケンウッドは2人を見比べた。どちらも同じ年齢、同じ部屋で同じ養育係に育てられた部屋兄弟だ。ドーマーにとって部屋兄弟は一番親しい間柄の人間のはずだ。しかし、この2人は水と油だ。適度に混ざり合うことが出来ない。

「私は君達どちらも好きだけどなぁ。」

とケンウッドは呟いた。

「お互いの長所を見て付き合っていけないものかな?」

 レインはそっぽを向いて口の中で言った。無理です、と。ニュカネンも副長官から目を逸らした。彼は何も言わなかった。
 そして3人はホテルにチェックインした後で、夕食に出たのだ。