入って来た患者は、なんとニコラス・ケンウッドだった。
「蕁麻疹でも出たのかい?」
「そんなんじゃないんだ。」
ケンウッドは右腕を出した。パーシバルは眉をひそめた。
「何だ? この傷は?」
「初めて見るだろう? 射創だ。」
「射創? 実弾で撃たれたのか?」
パーシバルの表情が強ばった。コロニー人が撃たれるなんて余程のことだ。ケンウッドは苦笑して、負傷したいきさつを語った。
パーシバルはジェルを取り除いて皮下神経の状態を探査機で測定した。聞き終わると、彼は異常なし、と宣言してから、親友の災難に話を向けた。
「遺伝子管理局が襲われるのは久し振りじゃないか? 近頃は減っていたからなぁ。時々クローン収容時に抗議デモやら投石があるみたいだが・・・」
「犯人は心理的に追い詰められていたそうだ。全財産を失ったんだな。」
「局員達の身の安全を今迄以上に考えないといけないね。」
「しかし、局員に護衛を付ける訳にはいかない。ハイネは局員を必ず2人1組で行動させるようチーフ達に通達したが、自主性重視だからね。 なにはともあれ、レインとニュカネンが無事で良かったのさ。もし2人が怪我でもしたら、私の責任になるからね。」
「だがあの2人は君が怪我をしたので上司から叱られたんじゃないのか?」
「班チーフからは厳重に注意されたそうだよ。だがハイネは彼等が無事だったことを喜んだそうだ。レインもニュカネンもそれに感激していたと言う話だ。」
「部下の扱いが上手いなぁ、ハイネは。ところで・・・」
パーシバルは先刻コートニー医療区長から聞いた話を確認しようとした。
「さっきサム・コートニーが、最近ハイネに父性が目覚めてキーラに近づく男達を威嚇すると言っていたが?」
「はぁ?」
ケンウッドはきょとんとした。
「確かにハイネはキーラが退官することを寂しがっているが、男を威嚇するなんて・・・それに彼はまだ父親であることを公表していないよ。ヘンリー、君はコートニーにかつがれたな?」
「僕がかつがれたって?」
「君達が結婚するので、コートニーがからかったのさ。それに鎌を掛けたんだろう? あの2人が親子かも知れないと言う憶測は以前からあったから。」
パーシバルは新しいジェルをケンウッドの傷に塗った。もう包帯は必要なくて、保護シールを貼るだけだった。ケンウッドがさらに語った。
「ハイネはちゃんと父性を持っているよ。ドーマーだって人間だ。彼等は自身で子育てをしないだけで、幼い者の面倒はよく見ている。ハイネがレインとニュカネンの無事を喜んだのも、上司としてと言うより、部下を息子の様に思っているからだよ。」
彼はニヤリと笑った。
「実は近頃出産管理区のアイダ博士がハイネに急接近しているんだ。キーラの送別会の打ち合わせと言う口実で、彼を頻繁に呼び出している。ケンが言うには、彼女はハイネに触りたいからだと・・・」
「触りたい?」
「うん・・・」
危うく送別会のサプライズを漏らしそうになって、ケンウッドは詳細を避けた。
「ハイネは嫌がらずに彼女の相手をしている。キーラが彼に甘えた時の対応と大差ないんだ。だから彼が近頃キーラと過ごす時間を増やしたからと言って怪しむ人間は殆どいない。寧ろ彼は女帝が好きなので退官する前に一緒に過ごしたがっていると考える人の方が多い。」
パーシバルはホッとした。ハイネに娘を奪う憎い男と思われたくなかった。ケンウッドは話題をまとめた。
「ハイネは君達の結婚を祝福している。ただ、月へ行ってしまうと彼女と会えなくなるので、それだけが彼の不満なのだよ。ドーマーの側から宇宙へ連絡を取れないからね。」
「それなら僕が回診の時に彼女に画像電話で彼と話してもらうよ。」
「蕁麻疹でも出たのかい?」
「そんなんじゃないんだ。」
ケンウッドは右腕を出した。パーシバルは眉をひそめた。
「何だ? この傷は?」
「初めて見るだろう? 射創だ。」
「射創? 実弾で撃たれたのか?」
パーシバルの表情が強ばった。コロニー人が撃たれるなんて余程のことだ。ケンウッドは苦笑して、負傷したいきさつを語った。
パーシバルはジェルを取り除いて皮下神経の状態を探査機で測定した。聞き終わると、彼は異常なし、と宣言してから、親友の災難に話を向けた。
「遺伝子管理局が襲われるのは久し振りじゃないか? 近頃は減っていたからなぁ。時々クローン収容時に抗議デモやら投石があるみたいだが・・・」
「犯人は心理的に追い詰められていたそうだ。全財産を失ったんだな。」
「局員達の身の安全を今迄以上に考えないといけないね。」
「しかし、局員に護衛を付ける訳にはいかない。ハイネは局員を必ず2人1組で行動させるようチーフ達に通達したが、自主性重視だからね。 なにはともあれ、レインとニュカネンが無事で良かったのさ。もし2人が怪我でもしたら、私の責任になるからね。」
「だがあの2人は君が怪我をしたので上司から叱られたんじゃないのか?」
「班チーフからは厳重に注意されたそうだよ。だがハイネは彼等が無事だったことを喜んだそうだ。レインもニュカネンもそれに感激していたと言う話だ。」
「部下の扱いが上手いなぁ、ハイネは。ところで・・・」
パーシバルは先刻コートニー医療区長から聞いた話を確認しようとした。
「さっきサム・コートニーが、最近ハイネに父性が目覚めてキーラに近づく男達を威嚇すると言っていたが?」
「はぁ?」
ケンウッドはきょとんとした。
「確かにハイネはキーラが退官することを寂しがっているが、男を威嚇するなんて・・・それに彼はまだ父親であることを公表していないよ。ヘンリー、君はコートニーにかつがれたな?」
「僕がかつがれたって?」
「君達が結婚するので、コートニーがからかったのさ。それに鎌を掛けたんだろう? あの2人が親子かも知れないと言う憶測は以前からあったから。」
パーシバルは新しいジェルをケンウッドの傷に塗った。もう包帯は必要なくて、保護シールを貼るだけだった。ケンウッドがさらに語った。
「ハイネはちゃんと父性を持っているよ。ドーマーだって人間だ。彼等は自身で子育てをしないだけで、幼い者の面倒はよく見ている。ハイネがレインとニュカネンの無事を喜んだのも、上司としてと言うより、部下を息子の様に思っているからだよ。」
彼はニヤリと笑った。
「実は近頃出産管理区のアイダ博士がハイネに急接近しているんだ。キーラの送別会の打ち合わせと言う口実で、彼を頻繁に呼び出している。ケンが言うには、彼女はハイネに触りたいからだと・・・」
「触りたい?」
「うん・・・」
危うく送別会のサプライズを漏らしそうになって、ケンウッドは詳細を避けた。
「ハイネは嫌がらずに彼女の相手をしている。キーラが彼に甘えた時の対応と大差ないんだ。だから彼が近頃キーラと過ごす時間を増やしたからと言って怪しむ人間は殆どいない。寧ろ彼は女帝が好きなので退官する前に一緒に過ごしたがっていると考える人の方が多い。」
パーシバルはホッとした。ハイネに娘を奪う憎い男と思われたくなかった。ケンウッドは話題をまとめた。
「ハイネは君達の結婚を祝福している。ただ、月へ行ってしまうと彼女と会えなくなるので、それだけが彼の不満なのだよ。ドーマーの側から宇宙へ連絡を取れないからね。」
「それなら僕が回診の時に彼女に画像電話で彼と話してもらうよ。」