「私の話ではなく貴方のお話を聞きに来たのですが?」
とハイネが強引に話題を変えた。助手と何の話をしたのか言うつもりはないらしい。
それでケンウッドはファイルを閉じた。
「実は先日ワグナー・ドーマーから相談を受けてね・・・リュック・ニュカネンが恋をしていると言うのだ。」
ハイネが黙っているので、ケンウッドはニュカネンがどこまで真剣なのか、確認する目的で局員の支局巡りについて行ったのだと言った。
「レインはセイヤーズ捜索でいっぱいいっぱいで、部屋兄弟の恋に気が付いていないようだった。ニュカネンも用心深く感情を抑えていたからね。あの事件が起きる迄、女性の話題は全く出なかった。」
「事件が起きる迄?」
「うん。事件は市役所の入り口で起きただろう? ニュカネンの相手の女性は市役所で働いているのだよ。文化教育課のアンナスティン・カーネルと言う人で、ニュカネンは怪我をした私を彼女に託した。彼女を心から信頼していると考えられる。」
ハイネが端末を操作して、1人の女性のプロフィールを画面に出した。失礼しますよ、と言って副長官室の会議用テーブルの上にその画像を立ち上げた。
「この女性ですか?」
「うん、正にその女性だ。」
2人は女性の遺伝子情報、経歴を読み取った。何の問題もない普通の女性だ。
「どんな女性でした?」
「親切で優しい人だ。多分彼女も真剣にニュカネンのことを考えている。銃撃の後、彼女は直ぐにニュカネンの所に走って来た。彼の身を案じての行動だ。」
ハイネが考え込んだ。若い部下が何を考え、これからどうしようと思っているのか、それを彼は考えているのだ。
もしニュカネンが中途半端な未来像で交際をしているのであれば、別れさせなければならない。それはハイネでなくともドームの執政官なら当然考える。ドーマーは貴重な人材だ。1人でも失う訳にいかない。ドームの外の女にあっさりくれてやる訳にいかないのだ。
「帰りにレインに打ち明けた。彼は驚いていたが、否定はしなかった。ニュカネンが恋愛していることを認めたのだ。しかしチームリーダーのトバイアス・ジョンソンは気が付いていない。ジョンソンが知らないので班チーフにも報告は行っていない。」
ハイネが腕組みした。まだ考えている。何を考えているのだろう? 外に出たドーマーは過去にも何人かいた。ポール・レイン・ドーマーの父親もその1人だ。彼等の多くは外の女性と恋愛をして女性を選択したのだ。堅物で名高いリュック・ニュカネンが恋愛するのは意外だったが、堅物だからこそ真剣さも固いのだろう。
ハイネが尋ねた。
「ミズ・カーネルはニュカネンを真剣に想っているのですね?」
「私にはそう思える。彼女は我々が出発する時も見送りに来て、食べ物や水を買ってもたせてくれた。そしてレインと私の目の前で彼等はハグし合ってキスを交わした。あれには私達は面食らったがね。彼女は本当に素敵な女性だったよ。」
ハイネがまた考え込んだ。何故彼が考え込むのか、ケンウッドは分かる気がした。ハイネは若い頃恋愛で失敗をしている。愛してはいけない人を愛してしまい、事実上捨てられた。彼は可愛い部下に哀しい思いをさせたくないのだ。
やがて彼は顔を上げた。結論が出たのかとケンウッドは思ったのだが、そうではなかった。ハイネはのんびりした口調で、夕食迄どうしますか、と尋ねたのだった。
とハイネが強引に話題を変えた。助手と何の話をしたのか言うつもりはないらしい。
それでケンウッドはファイルを閉じた。
「実は先日ワグナー・ドーマーから相談を受けてね・・・リュック・ニュカネンが恋をしていると言うのだ。」
ハイネが黙っているので、ケンウッドはニュカネンがどこまで真剣なのか、確認する目的で局員の支局巡りについて行ったのだと言った。
「レインはセイヤーズ捜索でいっぱいいっぱいで、部屋兄弟の恋に気が付いていないようだった。ニュカネンも用心深く感情を抑えていたからね。あの事件が起きる迄、女性の話題は全く出なかった。」
「事件が起きる迄?」
「うん。事件は市役所の入り口で起きただろう? ニュカネンの相手の女性は市役所で働いているのだよ。文化教育課のアンナスティン・カーネルと言う人で、ニュカネンは怪我をした私を彼女に託した。彼女を心から信頼していると考えられる。」
ハイネが端末を操作して、1人の女性のプロフィールを画面に出した。失礼しますよ、と言って副長官室の会議用テーブルの上にその画像を立ち上げた。
「この女性ですか?」
「うん、正にその女性だ。」
2人は女性の遺伝子情報、経歴を読み取った。何の問題もない普通の女性だ。
「どんな女性でした?」
「親切で優しい人だ。多分彼女も真剣にニュカネンのことを考えている。銃撃の後、彼女は直ぐにニュカネンの所に走って来た。彼の身を案じての行動だ。」
ハイネが考え込んだ。若い部下が何を考え、これからどうしようと思っているのか、それを彼は考えているのだ。
もしニュカネンが中途半端な未来像で交際をしているのであれば、別れさせなければならない。それはハイネでなくともドームの執政官なら当然考える。ドーマーは貴重な人材だ。1人でも失う訳にいかない。ドームの外の女にあっさりくれてやる訳にいかないのだ。
「帰りにレインに打ち明けた。彼は驚いていたが、否定はしなかった。ニュカネンが恋愛していることを認めたのだ。しかしチームリーダーのトバイアス・ジョンソンは気が付いていない。ジョンソンが知らないので班チーフにも報告は行っていない。」
ハイネが腕組みした。まだ考えている。何を考えているのだろう? 外に出たドーマーは過去にも何人かいた。ポール・レイン・ドーマーの父親もその1人だ。彼等の多くは外の女性と恋愛をして女性を選択したのだ。堅物で名高いリュック・ニュカネンが恋愛するのは意外だったが、堅物だからこそ真剣さも固いのだろう。
ハイネが尋ねた。
「ミズ・カーネルはニュカネンを真剣に想っているのですね?」
「私にはそう思える。彼女は我々が出発する時も見送りに来て、食べ物や水を買ってもたせてくれた。そしてレインと私の目の前で彼等はハグし合ってキスを交わした。あれには私達は面食らったがね。彼女は本当に素敵な女性だったよ。」
ハイネがまた考え込んだ。何故彼が考え込むのか、ケンウッドは分かる気がした。ハイネは若い頃恋愛で失敗をしている。愛してはいけない人を愛してしまい、事実上捨てられた。彼は可愛い部下に哀しい思いをさせたくないのだ。
やがて彼は顔を上げた。結論が出たのかとケンウッドは思ったのだが、そうではなかった。ハイネはのんびりした口調で、夕食迄どうしますか、と尋ねたのだった。